リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章44

『血の勲章』

首の痣に、自分の指が重なる。そして左腕の袖をまくると、そこに文字が刻まれていた。

🤲 両手

――何が、起きたのか

何が起きたのか、全く理解が追いついてこない。

手首には傷があり、喉はいがらっぽく、心臓の鼓動は馬鹿に速い。

だが、それらはいずれも記憶と直結せず、脳の空白地帯に生まれたバグとしか思えない。

――眼前に横たわる少女の命の灯火は、すでに絶えてしまっている。

🫀 蘇生

できることを、全部やる

スバル

「――っ、あ、きらめるのはまだ、早い」

スバル

「め、メィリィ……おい、メィリィ!」

呼びかける。反応はない。

声でダメならばと、肩を揺すり、掌で頬を軽く叩く。

やはり反応はない。開かれた瞼は瞬きすらしない。

薄い胸に両手を置いて、上から体重をかけて押し込む心臓マッサージ。

心臓の位置は鳩尾から指二本、などと聞いた覚えがあり、その知識通りに押し込んだ。

スバル

「あとなんだ。あと何がある。何がある何がある、クソ、クソクソ、クソ!」

所詮はテレビで中途半端に得た知識か、聞きかじりの生兵法でしかない。

💀 死んだ

――息を、吹き返さない

スバル

「――ちく、しょう」

メィリィは、息を吹き返さなかった。最初の、印象の通りだ。

――メィリィは、死んだのだ。

彼女を殺したのは、決して運命ではない。もっと明確な、殺意が彼女を殺したのだ。

その証拠に、メィリィの細い首には、痛々しい青黒い痣が残されていた。

🖐️ ぴったり

指の跡と、自分の指が重なる

乱れた服を直し、両手を胸の上で組ませ、ぼんやりと開いた瞼を閉じてやる。

そうして形だけでも死者に敬意を払うと、そっとその、細い首に手をやった。

スバル

「……ぴったり、だ」

指の跡に見えるそれと、重ねたスバルの指の形が素人目にもぴったりと一致していた。

メィリィは、首を絞めて殺害された。そして、その犯人は他でもない――。

スバル

「――ぅ、げぉ」

スバル

「俺、ホントに、ゲロ吐いてばっかだ、な……」

🙌 二本あれば

――手は、二本あれば足りる

状況証拠が揃いすぎている。

部屋には二人きりで、メィリィの首についた指の跡はスバルのそれと一致した。

誰かにハメられた、などとも考えなかった。

この状況を作り出すのに、他者の手など必要はない。

これを、悪夢を作り出すのに必要な手があるとすれば、それはたったの二本だけ。

――ナツキ・スバルの腕が二本あれば、ただそれだけで事足りるではないか。

スバル

「……意味が、わからねぇ」

🧠 思い出せ

――思い出せ、思い出せ

スバル

「何があった、何があった? 思い出せ。思い出せ思い出せ思い出せ……っ」

記憶がないことを隠して朝食を食べて、ユリウスを問い詰め、シャウラを抱擁して。

それから通路でメィリィと出くわしたのだ。

スバル

「昨日の、夜がどうとか……なんて言ってた……」

彼女が用件を口にした直後、そこでスバルの意識は途切れている。

メィリィは失われたスバルの記憶と、何らかの繋がりがあったはずなのに――。

スバル

「死んだ。それも、俺が首を絞めて……? なんで俺が、そんな……」

💅 爪の血

自分の爪に、血と皮膚がある

スバル

「――ぁ?」

視線が向かったのは、スバル自身の右手の爪だ。

その爪に、メィリィと同じように、人を引っ掻いた血と、抉った皮膚が詰まっている。

少なくとも、見える範囲に爪の傷跡はない。

スバルの爪が抉った痕跡は少女の体には残されていなかった。

スバル

「――まさか」

👕 袖をまくる

――左腕が、痛む

右腕の肘から先、そこが黒くグロテスクな変異を遂げているのは記憶に新しい。

だが、傷が疼くような痛みを感じているのは左腕の方だった。

微かに生地が張り付く感触は、渇いた血が剥がれる感覚のものだ。

そのまま息を呑み、スバルは一息に袖を肩までまくり上げる。

✍️ 文字

――そこに、文字が刻まれていた

そこには想像した通り、自分の右手で刻んだと思しき引っ掻き傷があった。

肘の内側から二の腕にかけて刻まれた痛々しい傷は、ただの傷跡として完結しない。

文字だ。それは、爪で肉体に刻み込まれた、歪な文字だった。

――『ナツキ・スバル参上』、と。

スバル

「――は」

😱 なんなんだよ

――お前、なんなんだ

指で左腕の傷を拭い、一度は止まった血が再び流れるほど、傷をこすって確かめた。

だが、他に読み取りようがない。汚い字で、日本語で、ナツキ・スバル参上と。

スバル

(ノ゚Д゚)ノ

「お前……お前、なんなんだよ!?」

何度も、何度も打ち付け、噛みしめた口の端から血がこぼれる。

しかし、そうまでしても現実は変わらない。腕の傷もまた、消えない。

スバル

「なかった! こんな傷は、絶対になかった!」

いい加減に認めろ。理解しろ。誰か、ではないのだと。

これが他のどんな存在でもない、ナツキ・スバルの犯行なのだと。

🖋️ 筆跡

――文字に、癖が出る

スバル

「く、るってる……」

――『ナツキ・スバル』とは、理解できない怪物の名前だったのか。

それこそ本気で、全く別の存在が憑依していたのだと言われた方が納得がいく。

スバル

「でも、そうじゃない……」

腕に刻まれた自分の名前、それでも文字に癖は出る。

具体的に言えば、文字のトメハネにスバルが自覚する癖があった。

よほど意識的に真似しなければ、そこまでの一致は他人にはできない。

👥 戻ってきてる

――意識が途切れた間に

「――俺の、意識が途切れた間、『ナツキ・スバル』が戻ってきてる?」

そしてその『ナツキ・スバル』が、仲違いしたメィリィを殺害し。

その事実をスバルの腕に残して、再び意識の狭間へと隠れ潜んだというのか。

スバル

「自分の体があるのに、なんで、俺を……いや、俺は、なんなんだ? お前は、何のつもりなんだ? 誰なんだよ、お前は……」

ついにスバルは、自分自身すらも無害な存在の枠から外さなくてはならなくなった。

🩸 赤い

――黒い肌からも、赤い血が出る

平静は保てない。心は、乱れに乱れ切ったままだ。

だが、『ナツキ・スバル』の意のままに振り回されるなど、そんなことは御免だ。

スバル

「――お前は、誰なんだ」

鏡なしには睨むことのできない相手への憎悪を呟く。

スバルは自分の右腕――グロテスクな紋様の走る肌へと、左手の爪を立てた。

つぷりと、裂ける黒い肌からは、赤い血の雫が確かに浮かび上がってきた。

――この黒い肌から流れる血も赤いんだなと、皮肉にもそう思った。

第六章44『血の勲章』終了。