リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章40

『星空に見捨てられて』

三度目の朝。二度死んだと理解したスバルは、塔から逃げ出すことを選ぶ。

3️⃣ 三度目

――三度、同じ顔を落胆させた

何もかも、散々だった。文字通り、散る散ると書いて、散々だ。

見つかり、連れ戻され、何があったか問い質され。

エミリア

「それじゃ、スバルは本当に、何にも覚えてないの?」

🧣 エキドナ

「姿が見えなくなったと聞いて困り果てていたが……まさか、こんな事態になっているとは思わなかった」

ラム

「いったい、どれだけ無様な姿を晒せば気が済むの、バルス」

シャウラ

「お師様、お師様。なんか、雰囲気がずんと暗くなったッスね~。それに……あれ、なんだろ。小便臭いッスね!」

どの反応も、大きく分ければ、すでに見過ごした反応だ。

一度目、二度目――これが、三度目。自分は三度、彼女たちを落胆させた。

💀 二度死んだ

――自分は、二度死んだのだ

スバル

「へ」

笑えてくる。同じ時間を、三度繰り返している事実が。

――自分は、二度死んだのだ。

一度目は途中で意識を失い、死の瞬間を味わうことがなかったから、自覚が抜けた。

だが、二度目はそうはならなかった。全身を破壊されて、やっと死んだ。

やっと死んだのに、舞い戻った。

死んで、舞い戻る。――『死に戻り』だ。

それが、この異世界で、ナツキ・スバルに与えられた、神様からの祝福。

🛏️ 部屋から出す

ラムが、妹を連れ出す

エミリア

「とにかく、落ち着くまでスバルには休んでてもらいましょう」

ラム

「今のバルスを、レムと一緒に置かせておくのはゾッとしないわ。ラムは反対よ」

ユリウス

「……しかし、スバルの体調の回復に一番可能性があるのは、あの部屋の精霊に頼ることが望ましいはず」

ラム

「だったら……だったら、レムをあの部屋から出すまでよ。あの子の世話は、ラムがつきっきりで見る。もう、あの子を心配しているのは、ラムしかいないんだから」

ラム

「……レムが、可哀想だわ」

その言葉の真意がわからない。わかりたいとも、思えない。

🫥 他人

――伸ばされた手から、身を引く

ベアトリス

「スバル、ここで大人しくしているのよ。きっと、ベティーが記憶の戻る方法を探してきてあげるかしら」

ベアトリス

「一人きりで、蹲ってなんかさせないのよ」

声には悲痛な色と、しかし気高い決意があった。

スバル

「……ぁ」

伸ばした指を、スバルは肩を縮めることで避けようとした。

その身じろぎを見て、特徴的な紋様のある少女の瞳が痛ましく揺れる。

他人だった。彼女たちはどこまでいっても、他人なのだ。

――否。彼女たちにとって、ここにいるスバルが他人なのだ。

親しみも、気遣いも、本来の『ナツキ・スバル』へ向けられたものだ。

この残骸に向けられたものでは、ない。

😠 謂れがない

――殺される謂れも、ない

スバル

「殺される謂れだって、俺にはねぇよ……」

身に覚えのない親愛と信頼を向けられることは、まだマシだ。

だが、『ナツキ・スバル』が積み上げた、殺意の尻拭いを何故しなければならない。

良いことも、悪いことも、一緒くたにして全てが自分のものではないのだ。

スバル

「俺は、御免だ……」

🎒 三日分

水と食料を、持ち出す

そうするスバルの背中に、唯一の同席者であった黒いトカゲの鳴き声がかかる。

それは、どこかか細く、寂寥感を滲ませたものに聞こえたが、すぐに首を横に振る。

スバル

「餌は誰かが運んでくれるだろ。大人しくしててくれ」

いったい、誰がスバルを突き落とし、その命を奪ったのかがわからない。

だが、あの場所で、誰かがスバルの背中を押したことははっきり覚えている。

容疑者は七人――その中の、何人が敵なのか、味方なのか、わからない。

――本当は全員が、スバルを殺すために塔に集まった刺客なのではないか?

😔 半端野郎

――疑い切れない

食料を持てるだけ持ち出しても、心が咎めることはない。

しかし、その判断は同時に、変わらず声をかけてくれたエミリアを。

記憶を戻す手立てを探すと言ってくれたベアトリスを。

記憶をなくしたことを信じ切れずに叫んだラムを――演技だったと疑うことになる。

無理だった。

スバル

「クソ、クソ、半端野郎……!」

どっちつかずの自分の醜態を罵り、スバルはこっそりと食料を袋に詰める。

それを、おおよその見立てで三日分、一人で食べる分だけ持ち出すことにした。

🪜 下る

階段を、下りていく

スバル

「俺が、二回死んだ時間は越えたかな……」

『死に戻り』の効果がさっそく発揮された。

こうやって、身に降りかかる死亡フラグを次々と乗り越え、綱渡りを続けていけと。

そんなのは、嫌だ。そんな目に遭わされるぐらいなら、こんな場所にいない方がマシだ。

スバル

「知るかよ!!」

優しくされたかもしれないが、偽りかもしれないのだ。

心配してくれたかもしれないが、その裏では殺意の刃を研いでいるかもしれない。

スバル

「その、伝えた相手が敵だったらどうすんだよ」

🚪 でかい扉

五層の、巨大な扉

スバル

「でかい、扉……」

見上げるほどに強大な扉が、恐ろしい圧迫感と共にそこに聳え立っている。

微かに、砂っぽい風が吹くのを感じる。扉が外と通じていることの確かな証拠だ。

スバル

「確実に殺される場所にいるより、能動的に助かる賭けをしてやる」

正常な判断ではないと言われればそうなのかもしれない。

だが、この状況下で『自分』さえ信じられなくなれば、待ち受けるのは暗闇だけだ。

扉の大きさはスバルの十倍ではきかない。

それが、スバルの掌で押されると、まるで機械仕掛けのように容易く押し開かれる。

🏜️ 砂の海

――外は、本当に砂漠だった

そっとスバルは隙間から外を覗き込んだ。

うっすらと夜の気配に呑まれつつある、広大な砂の海だった。

スバル

「……本当に、砂漠、なんだな」

遮蔽物も何もない環境で、地平線の果てが見えない状態なのだ。

だが、どれだけ距離があったとしても、永遠に詰まらない距離ではないはずだ。

一歩進めば、外の世界に一歩近付く。

外の世界に近付けば――元の世界に一歩、近付くのではないか。

一瞬、スバルの足が塔の中に残りかけた。

それを、スバルは振り切る。外への、元の世界への未練が、そうさせた。

ナツキ・スバルの帰る場所は、父と母の待つ、あの家なのだから。

🪱 化け物

――四歩目で、砂が炸裂する

砂を踏みつけると、思った以上に靴底が砂に取られる感覚がある。

それを力ずくで踏み躙って、ナツキ・スバルは外の世界へと、力強く歩み出した。

スバル

「――え」

踏みつけた靴裏が大きく炸裂して、スバルの体は宙に高々と投げ出されていた。

手足がなく、ぬめる体皮を持って、凶暴かつ残酷な牙を口に並べた巨躯。

恐ろしく巨大なミミズだ。体長、十メートルを下らない、ミミズの化け物。

スバル

「この、クソったれ……ッ」

👻 残滓

体が、勝手に動く

轟、と風の唸る音が聞こえ、体が意識の置き去りにされるような感覚を味わった。

飛び込んでくるミミズ、その右脇に転がり込み、初撃を躱す。

それをうまくやった自分の幻覚が見える。

その幻覚の行動をなぞるように、意識に遅れている体が動けばいい。

体が、自分の記憶よりもはるかに機敏に動いた。

脳裏に過ったのは、スバルにとって記憶にない『ナツキ・スバル』の一年間。

この過酷な環境で生き延びた『ナツキ・スバル』、その経験の残滓がある。

🌀 尾

――甘く、見た

転がる勢いを前身の勢いへ転化して、スバルは塔の入口へと全力で走る。

瞬間、ミミズの尾が砂の地面を割るように出現し、足下を刈るように炸裂する。

またしても体は宙へと投げ出されていた。

眼下、大口を開け、その体を貪ろうとするミミズの汚い口腔があった。

――甘く見た。

温室も同然の世界で過ごしてきた自分が出し抜けるなどと、甘かった。

浅慮で浅薄、その代償を、また命で支払うことになる。

スバル

「嫌だあああああああ!!」

⚪ 白い光

――白い光が、迸った

叫び、助けを求めて夜空に手を伸ばす。

触れられるものはない。あるはずの星すらも見えず、スバルは一人、落ちていく。

同じ名前を持った星にも見捨てられて、化け物の腹に呑まれ、消えてなくなる。

そんな、絶望を――。

――白い、光が迸った。

衝撃はミミズの横っ面に突き刺さり、その巨大な頭部を歪ませて、刹那、爆ぜる。

スバルを呑み込むはずの頭部がなくなり、ミミズの巨躯がぐらりと揺らぐ。

傷口をクッションに、スバルは身の毛もよだつ不快感と引き換えに命を拾った。

次々と、視界の端をちかっと光が破裂するたびに、ミミズの亡骸が撃ち抜かれる。

🌌 星が見えない

空には、星がない

頭上、ミミズに投げ飛ばされたときと同じ、星の見えない空がある。

何の因果か、命を拾った今も、空は変わらず、『昴』を見捨てたままでいる。

呆れられて、望まれて、見放されて、憎まれて、親しまれて、遠ざけられて。

生きたいのか、死にたいのか、いたいのか、いたくないのか。

スバル

「俺に、どうしろってんだよ……! 答えがあるなら、教えてくれよ……!」

返事のない中、スバルが聞きたい答えを、一番持っているのは誰なのか。

「――答えてくれよ、ナツキ・スバル」

📍 白い針

耳を、削がれる

何気なく、何の意味もなく、ただ、身をひねっただけだった。

――そのささやかな動きが、耳を掠めて突き刺さる白い光から命を救った。

スバル

「づっ」

白く光る、細長い針のようなものが、砂地に突き立っていた。

スバル

「これ……ぇ」

手を伸ばし、触れようとした途端にその白い針は塵へと変わる。

🕳️ 砂に呑まれる

――地面が、崩れる

そして、直後に、スバルの視界がぶれた。

大きくぶれた。それは上から下へ、だ。

尻の下の地面が崩れ、周囲の大地ごと地下へと落ちる。

スバル

「う、ぁ、あああぁ!」

飛びのいて、縋ろうとしても指は砂をすり抜ける。

蟻地獄へと落ちる虫のように、抵抗できないままに、砂底へ落ちる。

スバル

「誰か、誰か、助け……」

そうして、惨めに足掻く『昴』を、空の星は一欠片も気付くことなく。

第六章40『星空に見捨てられて』終了。