リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章33

『■■■・■■■』

隠していたことが、全部こぼれる。そして翌朝、目を開けたスバルは知らない部屋にいる。

😶 どこから

――どこから、聞いていたのか

無数の羽音に置き去りにされて、夜のバルコニーに深淵が降り積もる。

寄る辺のない空へ落ちることの方が、この場に残ることよりもよほど気が楽だ。

仮にそれが事実なら、スバルも全く同意見だった。

ユリウス

「――今の話は、どういうことなんだ?」

直前のそれと内容は変わらず、しかし声音にはわずかに力が戻っている。

そのことがユリウスの、芯の強さを悲しく証明していた。

事は『人工精霊』、『強欲の魔女』、『暴食の権能』と様々な要因へ及ぶ。

それらの詳細を、スバルはユリウスに隠すと判断していた。

🎭 取り繕う

アナスタシアの口調に、戻る

アナスタシア

「――あー、もう、ナツキくんたらあかんよ、そんな見え見えの態度して」

スバル

「……あ?」

アナスタシア

「ごめんな、ユリウス。でも、仲間外れにしようとしてたわけと違うんよ。うちはただ、このプレアデス監視塔から戻ったあとのことで、ちょこーっとナツキくんと大事なお話してただけ」

その仕草は可憐で、いかにもアナスタシアがやりそうなものに思えた。

だが、肝心の話の誤魔化し方が、アナスタシアではありえないほどに低レベルだ。

この状況を望まず、不意を打たれたのはエキドナも同じはずだ。

彼女の方がほんのわずかだけ、スバルより早く行動を起こせただけに過ぎない。

🔓 見抜かれる

ユリウスが、名前を呼ぶ

ユリウス

「――アナスタシア様、ではないのだね」

ユリウス

「エキドナ、君の事情を話してもらいたい。事ここに至って、なおも私に隠し立てしようとするほど、君も往生際は悪くないはずだ」

ユリウス

「エキドナ」

もう一度、ユリウスに呼ばれて口を噤んだ。

彼女はアナスタシアの顔をスバルへ向け、浅葱色の瞳を言葉にし難い感情に揺らす。

スバル

「ユリウス、どこから聞いてた?」

ユリウス

「……アナスタシア様のお体のことから」

その部分だけで十分、感情的になって取り乱して当然の内容だ。

📖 打ち明ける

🧣エキドナが、全部話す

🧣 エキドナ

「――プリステラでの魔女教との戦い、あれ以降、アナの精神は体の奥底で眠り続けている。そのため、今、彼女の体を動かしているのはアナではない。ボクがアナを演じることで、今日までずっと過ごしてきた」

ユリウス

「何故、スバルだけはその情報の共有を?」

🧣 エキドナ

「彼が大罪司教の権能の影響も受けず、最も状況の混乱の外にいた人物だった。それに人工精霊であるボクと、そのルーツを同じくするベアトリスと契約を交わした精霊術師でもある。もっとも、ボクも打ち明けようと最初から考えていたわけじゃない。ただ……」

ユリウス

「――。ただ?」

🧣 エキドナ

「ただ……彼に、ボクがアナを演じていることを見抜かれたから、話さざるを得なかったんだ」

🗡️ 自嘲

ユリウスが、自分を斬る

ユリウス

「関係の薄い、外部の人間にも気付けるはずのことを、一の騎士を自任する男が気付けずにいたということか……」

スバル

(#゚Д゚)

「待て、馬鹿! お前、そんな言い方はねぇだろ!」

スバル

「状況が……状況が悪かったんだよ! あんな大事件があって、お前はお前で切羽詰まってた! 俺が気付いたのは……なんか、とにかく、たまたまなんだよ!」

忠誠を捧げた主君からも、共に主君を盛り立てようと誓った仲間たちにも。

積み上げてきたものを砂山のように崩されて、なおも立てと何故言える。

騎士であることが、人間らしく傷付くことすら許されない生き方であるなら。

騎士であることこそが、ユリウス・ユークリウスにとっての呪いだ。

ユリウス

「その、偶然を常に確かなものに昇華することが、一の騎士の務めだ」

スバル

「――ッ! 何が、一の騎士……だったらそんな面倒な肩書き……」

ユリウス

「捨ててしまえ、などと言わないでいてくれ。私は……今の私は、私から何か一つ、取りこぼすことさえ恐ろしい」

🗡️ 斬っても

斬れば、どうなるか

ユリウス

「話を戻そう。――エキドナ、あなたの目的は?」

🧣 エキドナ

「……この肉体を、アナに返すことだ。この、プレアデス監視塔へボクが君たちを案内した理由は、『暴食』や『色欲』の被害より、それを優先してのことだった」

ユリウス

「つまり、現状はあなたにとっても望まぬ事態であると。……仮に、あなたを斬っても」

🧣 エキドナ

「ボクが悪い精霊で、あれこれ理由を付けてアナの肉体を乗っ取ろうとしている……その推測を否定する証拠をボクは出すことができない」

🧣 エキドナ

「おそらくその場合、意識の戻らないアナの抜け殻が残されるなら御の字……最悪の場合、生命維持に支障をきたし、命を落とす可能性もある」

🧣 エキドナ

「ボクが死ぬことでアナが長らえるなら、それでも構わないと思う気持ちもある。死にたくはないけどね」

💚 好きだよ

その理由は、単純だった

ユリウス

「どうして、あなたはアナスタシア様のためにそこまでできる?」

🧣 エキドナ

「ボクとアナとは不完全な関係だ。だから、一般的な精霊と、精霊術師の在り方に当てはめるのは正しくないかもしれないが……」

形は違えど、精霊と正しく契約関係にあった二人を羨むように。

「ボクはアナが好きだよ。この子がまだ幼かった頃から、ずっと傍にいた。だから見捨てたくなんてないし、幸せになってほしい。――それが、ボクの理由だ」

🧣 エキドナ

「ユリウス、君に事実を明かさなかったのは、余計な混乱を招きたくなかったからだ。可能であればアナはボクの存在を隠し通そうと考えていたし、事実、プリステラの一幕があるまでボクのことは隠し切れていた」

ユリウス

「……アナスタシア様と、あなたの関係は理解できた。何もかもを信じ切ることは難しい。だが、信じるしかない。少なくとも今、あなたをどうこうするのは軽率だ」

❓ なぜ無茶を

二層での援護は、なぜだったのか

ユリウス

「確認したい。アナスタシア様のオドを対価に、あなたが顕現し続けるなら……無理をすればするほど、アナスタシア様のお体に負担がかかる。それは間違いないはずだ」

🧣 エキドナ

「そうだね。その認識で正しいよ」

ユリウス

「そうか、それならば……何故、二層であんな無茶な真似をしたんだ?」

ユリウス

「二層の試験官である、レイド・アストレアと私が戦っている最中、アナスタシア様の体を預かるあなたは、魔法を行使し、援護に入った」

ユリウス

「ここまで話していて、あの行いだけがあなたの主張と食い違う。それは何故だ?」

🧣 エキドナ

「あれは、ボクも失敗だったと感じている。なんというか、素人目でお恥ずかしいが、戦略的な観点からの判断だったんだよ」

🧣 エキドナ

「あの時点で、二層の試験官の殺意の有無はわからなかった。下手をすれば、ユリウスという戦力を失いかねなかったわけだ。それは避けたかった」

😤 納得するな

ユリウスが、あっさり納得する

ユリウス

「――わかった。今後は軽挙は謹んでほしい。他でもない、アナスタシア様のために」

🧣 エキドナ

「心得たよ」

スバル

(゚д゚)

「なっ!? 今の話で、なんで納得が……」

ユリウス

「スバル、私は納得した。エキドナも、今後は軽挙は慎むと約束した。これ以上、何を言えばいい? ――これはアナスタシア様とエキドナの問題であり、私とアナスタシア様の問題でもある」

ユリウス

「奇妙な行き違いから君を巻き込んだようですまない。だが、これはあくまで、アナスタシア様の陣営である私たちの問題だ。君が心を痛めることではない」

スバル

「俺が、何をどう受け止めようと俺の勝手だろうが!」

ユリウス

「そして君が受け止め、私に私の問題は受け止めさせまいと? ……アナスタシア様とエキドナのことを、語らずにいたように」

ユリウス

「すまない。言葉が過ぎた。……だが、事実だ」

ユリウスは全く、平静を保ってなどいなかった。

🛡️ 騎士足り得ぬ

――思われたく、なかった

ユリウス

「長居する理由も、もはやない。中に戻ろう。アナスタシア様のお体と、エキドナのことは明日……改めて、エミリア様たちにもお話しなければ」

歩き出したエキドナの手をユリウスが優しく取る。

それはきっと、彼がアナスタシアにするのと寸分変わらない所作。

中身がどうあっても、アナスタシアへの忠節は変わらない。

スバル

「ユリウス! お前、俺に何か言いたいことねぇのかよ」

ユリウス

「――あるさ」

ユリウス

「わかっている。君が何を考え、私に事実を隠していたのかはわかっている。悪意があるはずもない。あるのは配慮と、心遣いだけだ。仮に逆の立場であっても、やはり私は君に黙っていただろう」

ユリウス

「――だが、それでも」

「私はアナスタシア様にも、君にも、騎士足り得ぬなどと思われたくなかった」

🌵 棘

残された言葉が、棘になる

何も言われないと、正直思っていた。――否、そうではない。

彼の高潔さがそれを許さず、あの場は静けさに呑まれるものと。

だが、そうはならなかった。

恨み言を言われれば、楽になるものと思っていた。

しかし、ユリウスの残した棘は痛みを主張し、傷口からは血が流れ続ける。

棘を抜くことを躊躇うほどに、深く。

スバル

「緑部屋には……戻れない、よな」

🌸 しょぼくれ顔

ラムと、鉢合わせる

ラム

「――バルス?」

ラム

「ずいぶんとしょぼくれた顔ね。みっともない」

スバル

「……会うなりいきなりだな。っていうか、ラムはこんな時間に何してんだ?」

ラム

「どうせ、またレムに聞かせても仕方のない愚痴をこぼしていたんでしょう? いくらラムの妹が可愛くて寛容でも、無理難題ばかり押し付けるのはやめなさい」

スバル

「……ああ、そっちか。まぁ、そうだよな」

ラム

「情けない顔するのをやめなさい」

スバル

「あでっ」

ラム

「しょぼくれた顔で、情けない顔で、ただでさえ低い男が下がるわよ。そんなだと、バルスを騎士にしているエミリア様の品格が疑われるわ。改めなさい」

スバル

「……なんつーか、ホント、姉様って姉様だよね」

ラム

「ハッ。気色悪い感想はやめなさい」

🪜 引き返した

ラムも、階段を上ろうとしていた

スバル

「……二層への階段、か? まさか、上にいってたんじゃねぇだろうな。一人で」

ラム

「安心なさい。そこまで無謀じゃないわ。この目で見たわけじゃないとはいえ、レイド・アストレアを一人でどうにかできると思うほど自惚れてもいないしね」

ラム

「――二層に上がってはいない。上がろうと、してみただけよ」

スバル

「……無謀じゃないって言ったのにか。まさか、寝込みを襲おう的な?」

ラム

「残念だけど、寝込みを襲うのは無理ね。階段の途中で引き返したわ。そのぐらい、あれは規格外の化け物よ。ガーフが可愛く見えるわね」

ラム

「確信したわ。手段を選ばなくなれば、あっちも手段を選ばなくなるだけ。やっぱり話し合った通り、攻略には本気にさせない程度に満足させる必要があるわね」

👋 また明日

ラムは、深く踏み込まない

ラム

「いずれにせよ、二層の……レイドの攻略には手間暇がかかるわよ」

スバル

「まぁ、あいつが当てにならなかったのは事実だが、あんまり言ってやるな。そもそもあいつが手助けしてくれなきゃ、俺たちは揃って砂の下で黒焦げだったんだし」

ラム

「綺麗事ばかり並べていても、どこかで行き詰まるときがきっとくるわよ」

スバル

「俺だって、別に何でもかんでも清廉潔白が正しいって思ってるわけじゃない。ケースバイケース……今回は、特にそれに当たらないってだけ」

ラム

「気楽なことね。……ラムは、そんな悠長には構えられないわ」

ラム

「好きになさい。もし、寝不足が理由で足を引っ張るようなことがあったら、ねじ切るわよ」

スバル

「ああ、悪い……ねじ切るって何を!?」

ラム

「ご想像にお任せするわ」

スバル

「姉様、お休み。また明日」

ラム

「……ラムはバルスの姉様じゃないわよ。その呼び方、やめなさい」

💡 思いつく

――ひとつ、思いついた

スバル

「二層の攻略、レイドの攻略について考える」

レイドの攻略は、彼の本気を出させずに、彼を本気で満足させる手段を見つける。

かなりアバウトな内容だ。せめて、そのアバウトさを少しでも減らせるなら。

スバル

「――そうだ」

ふいに電撃的に脳裏を過った考えに、スバルの足の向く先がバシッと決まる。

スバル

「これがうまくはまれば……」

――夜の監視塔に、逸るスバルの靴音だけが高く響く。

――たった独りの、靴音だけが。

😲 転がり落ちる

――目が、覚める

――目覚めの感覚は、水中から水面に顔を出す瞬間に近い。

エミリア

「――スバル! ねえ、スバルってば、大丈夫なの?」

スバル

(ノ゚Д゚)ノ

「って、うおわぁ!?」

目を開けた瞬間、すぐ間近にあった美貌に驚かされ、スバルは横に転がった。

転がってすぐに地面がなくなり、そのまま短い距離を落下、肩を打ち付ける。

エミリア

「きゃっ! スバル、平気!? なんでそんなにいきなり転がったの!?」

スバル

「い、いや、俺も別にいきなり転がろうと自主的に判断したわけじゃ……」

🌿 緑色の部屋

そこは、緑色の部屋だった

部屋中、育ちすぎた蔦がのたくるように覆い尽くし、壁は完全に隠れている。

仮に蔦でできた部屋だと言われたら信じそうなぐらい、突飛な外観の部屋だった。

エミリア

「ん、どこか強く打ったりはしてないみたい。ホントによかった。でも、すごーく心配したんだから、あんまり驚かせないでね」

ベアトリス

「エミリア、そんな言い方だとスバルは反省しないかしら。もっときつく言ってやらないと、ベティーたちの心配ぶりがスバルには伝わらんのよ」

エミリア

「そうよね。ほら、ベアトリスもこう言ってるでしょ? スバルが見当たらないって大慌てで、倒れてるところを見つけて泣きそうだったんだから……」

ベアトリス

「言わなくていいことまで言わなくてもいいかしら!」

🦎 大きなトカゲ

後ろに、大きなトカゲがいる

地べたに座り込むスバルのすぐ後ろに、何か巨大な生き物の気配。

それは、大きなトカゲだ。黒い鱗の肌をした、馬ほどもでかい大きなトカゲ。

それがあろうことかスバルにすり寄り、鼻先を首筋に擦り付けてきている。

ずいぶんと人懐っこい、とスバルはそのトカゲの頭を優しく撫でた。

そして、ため息をつく。

スバル

「つまり、これはあれだな」

🌍 異世界召喚

――だって、これは、つまり

エミリア

「――スバル?」

姉妹のように息を合わせて、二人が同時にスバルの名前を呼んだ。

目が潰れそうなほどに美しい銀髪の少女と、妖精のように可憐なドレスの幼女が。

銀髪美少女と、縦ロール幼女、巨大なトカゲ、蔦でできた部屋――。

スバルは大きく口を開け、叫んだ。

「異世界召喚ってヤツ――ぅ!?」

第六章33『■■■・■■■』終了。