リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章32

『何者』

星の見えるバルコニーで、アナスタシアの中身と向き合う。そして問い返される。

🌌 外だ

壁の向こうは、夜の空だった

――想定外の光景を前に、スバルは唖然と瞠目するしかなかった。

スバル

「――トンネルを抜けると、そこは雪国だった」

こぼれた軽口は、この奇妙な光景の説明に何ら寄与していない。

潜ったのは壁であってトンネルではなく、広がったのも冷たい風の吹く砂海の夜だ。

アナスタシア

「――ナツキくん?」

スバル

「……夜の散歩にはうってつけの絶景スポットだな」

アナスタシア

「見晴らしがええのはホントやね。でも、せっかくの見晴らしも、肝心の景色が真っ黒々やなんて残念やわぁ」

⭐ 星が見える

星が見えること自体が、おかしい

スバル

「空気が冷たくて澄んでるから、星が超よく見える。ロマンティックだろ?」

アナスタシア

「星が綺麗なんは事実やけど……それやと星の見映えより、もっと気になることがあるんと違う?」

スバル

「もっと気になること、ってのは」

アナスタシア

「星が見えることそのもの。ここまで、砂海で星が見えた夜なんてあった?」

スバル

「瘴気が濃くて、空に雲みたいにかかってたはずだもんな」

アナスタシア

「それがないってことは、この塔だけ瘴気と無縁なんか……もしくは、ここが立ち込めてた瘴気より上の高さにあるってことかもしらんね」

現在の高度は、地上数十メートルなんて高さではなく、百メートル単位の高所だ。

――それでも、雲を突くような塔のてっぺんは到底見えない。

🐦 無数の鳥

鳥が、五十羽はいる

この場に、顔を突き合わせるのは二人だが、バルコニーには多くの観衆がいる。

微動だにせず、状況を静かに見守り続ける作り物のような鳥たちだ。

羽を休める鳥の数は五十を下らない。

群れかと思われるほどの数だが、集まった鳥たちの種類は統一されていない。

白い鳥が、青い鳥が、黒い鳥が、斑の鳥が、大きい鳥が、小さい鳥が。

種類雑多で統一感のない鳥たちが、一揃いに集まっている。

――これだけ多くの鳥がいるのに、鳴き声どころか、羽音一つ聞こえてこない。

この統一感のない鳥たちは、意思だけは統一されているのだ。

🤨 怪しすぎる

この状況の、言い訳を求める

スバル

「――で、この状況の言い訳は?」

アナスタシア

「言い訳?」

スバル

「深夜、こっそりと寝室を抜け出して、誰も知らない秘密の通路を抜けて、こんなところで夜風に当たりながら鳥たちと戯れる……怪しすぎるだろ」

アナスタシア

「秘密の通路、は大げさなんと違う? だって、現にナツキくんもこうしてここにおるわけやし」

スバル

「それは……鳥が俺を導いたというか、あれだよ」

アナスタシア

「それやったら、うちもおんなじ。夜、塔の中をふらふらーっと散歩しててん。そしたら鳥が飛んどるやないの。それ、何かなーって追いかけたらここに」

アナスタシア

「なんて、信じてくれん顔やね?」

🗣️ 噂話

砂海で迷ったら、鳥を探せ

――プレアデス監視塔に向かって、アウグリア砂丘を鳥が飛ぶ、と。

そんな話を聞かされたのは、砂海越えの準備に立ち寄った街の酒場だ。

砂海で道に迷うことがあれば、鳥を探せと店主は言っていた。

スバル

「これ見ると、あながちあれも単なる噂話じゃなかったってことか……」

彼らはただ静かに羽を畳み、宵闇を飛ぶのを嫌うように翼を休めている。

冷たい風に晒されながら、それでも身を寄せ合い、温もりを共有することもなく。

🔄 入れ替わる

――中身が、切り替わる

スバル

「――今、ここにいるのは俺とお前の二人だけなんだ。腹割って話さないか」

アナスタシア

「ん……」

スバル

「正直、人のガワ被ったお前と話してても埒が明かない。何を言われても、俺がお前を根っこから信用するのは無理だ。だから……」

「――アナを演じるボクではなく、ボクと言葉を交わしたいと」

彼女を取り巻く雰囲気が一新され、姿形は変わらないのに存在感が変質する。

瞳に宿った感情が、思考が織りなす表情が、切り替わっていた。

🧣 エキドナ

「――ここで、こうして二人きりで言葉を交わすのは確かに初めてだったね」

🚧 柵がない

オリジナルと、比べるな

🧣 エキドナ

「こないのかい?」

スバル

「いや、だって柵ないし、安全対策が不完全すぎるから嫌だ」

🧣 エキドナ

「別に、無警戒に近付いてきても突き落としたりしないよ?」

スバル

「その言い方が信用ならねぇんだよ。そういうとこ、オリジナルそっくりだな」

🧣 エキドナ

「何度か言っているが、そのオリジナルの魔女とやらとボクをあまり同一視しないでもらえないだろうか。はっきり言って、知らない人物と比べられるのは不愉快なことこの上ない。それが、ボク自身の造物主であったとしても、だ」

スバル

「その物言いもなんだが……そうだな、悪かった。善処するよ」

🐰 兎

たくさんの動物には、いい思い出がない

スバル

「お前、よくその鳥に無警戒に触れるな」

🧣 エキドナ

「……今のボクの話を聞いてくれていたかい?」

スバル

「ばーっと群がってきて、全身ついばまれて殺されるとか怖くねぇの?」

🧣 エキドナ

「その、君の想像の方がよっぽど恐ろしい。まさか、それも経験則だなんて言い出さないだろうね?」

スバル

「見た目は可愛い兎に、元気よく飛びつかれ……そうになったことがあってな」

幾度も重ねてきた中でも、一際ひどい死に様だったのがその記憶だ。

❓ 何者

――君は、何者なんだ

🧣 エキドナ

「ボクは正直なところ、君に同じことを聞きたいと思っていた」

スバル

「俺に、同じこと?」

🧣 エキドナ

「ボクは導かれるようにここへ足を運んだ。そして今、この場所で君と対話している。……塔へ戻る入口の前に立つ、君と」

🧣 エキドナ

「君は、この塔の管理者であったシャウラとも顔見知りだった。少なくとも、向こうは完全にそのつもりで君に接している」

「――ナツキ・スバル、君は何者なんだ?」

スバル

「何者も、なにも……」

🔍 調査

素性は、調べられていた

🧣 エキドナ

「プリステラに赴く以前に話は戻る。一年前、君が白鯨討伐と、『怠惰』の討伐を成し遂げた論功式のあとだ。アナは、君のことを調査したんだよ」

🧣 エキドナ

「君の素性はわからなかった。最低限の情報を調べること自体の難易度も相当だったとアナがぼやいていたよ」

🧣 エキドナ

「辿ることができたのは王選が始まる直前、王都で起きたとされるちょっとした出来事に関わっていたことぐらい。騎士ラインハルトが、候補者の一人であるフェルトを見出したとき、君を見かけたと証言が取れた。だが、それだけだ」

それ以前の記録は存在するはずがない。

アナスタシアの調査は、スバルの足取りをほぼほぼ完璧に追い切っていた。

『死に戻り』を伝えられずに苦しんだ経験は多い。しかし、今回のこれは初めてだ。

ナツキ・スバルが何者であり、出自不明の人物であることが鎖になるのは。

🤲 白い指先

膝の上の手に、力が入っている

🧣 エキドナ

「と、こうしてくどくどと並べてみたわけだが」

スバル

「――ぁ?」

🧣 エキドナ

「こうして夜更けに二人、誰の目もない空間で一緒にいることに不安を覚え、警戒したとしてもそれは仕方のないことと許してほしい」

――膝の上のエキドナの手に、指先が白くなるほど力が入っていることに気付く。

スバル

「……お前、もしかして本気でビビってるのか?」

🧣 エキドナ

「――その発言は、少し心外だな。例えばだが、君はシャウラと本当はどういう関係なんだい?」

スバル

「シャウラとは、ここで会ったのが初めてだ。何も知らない」

🧣 エキドナ

「三層の『試験』、あれほど早く君が解き明かせたのは偶然かな?」

スバル

「……偶然だ」

🧣 エキドナ

「それなら、君がこうして、一見してわからないように偽装された隠し通路を抜け、たまたまボクしかいない状況で、声をかけてきたことは?」

スバル

「逆の立場になってみろ、か……」

🎯 足場

ここは、狙撃のための足場だ

スバル

「ここで、俺とお前が会ったのは偶然だとして、だ。じゃあ、ここは? このバルコニーみたいな場所は、何のためにあるんだと思う?」

🧣 エキドナ

「それについては仮説がある。その乱痴気騒ぎの際、花魁熊に追われるボクたちを白い光が襲った。――あれは、どうやらシャウラの仕業だったそうじゃないか。なら、この場所は」

スバル

「――あいつの、砂海を監視する足場?」

窓もなく、外を眺める手段のない塔のどこでそれをしていたのか。

🧣 エキドナ

「おそらく、こうした場所は塔の円周の至るところにあるんだろう。見たところ、この空間はボクたちが塔に接近しようと試みた方角とはずれる」

🔪 解体

鳥は、生きているらしい

スバル

「鳥は?」

🧣 エキドナ

「鳥については謎だ。こうして触っても反応はない。ただ、おそらく体温はあるようだから、実際に作り物というわけではない。できれば解体してみたいが……」

🧣 エキドナ

「生憎、アナの体にこれ以上の負担をかけたくない。君が鳥を絞めてくれるなら話が早いんだが……」

スバル

「そりゃ、どうしても必要ってんならやるが……殺したあと、食べる分には……」

🧣 エキドナ

「そう、残った食糧の問題もあったね。では、二十羽ほどお願いしたい」

スバル

(ノ`Д゚)ノ

「馬鹿野郎! お前、ゼルダの伝説知らねぇのか!?」

スバル

「それに、さすがに殺したらこの無数の鳥たちにも動きがあるんじゃないか?」

🧣 エキドナ

「……それは、否定できない怖さがあるな」

🕯️ 削れていく

アナスタシアの魂が、削れている

スバル

「あんまりちゃんと確かめてこなかったけど、アナスタシアさんはどうなんだ?」

🧣 エキドナ

「……依然変わりなく、だ。アナは今も、この体の奥底で眠り続けている。これほど長く体に宿ったことはないから、ボクも焦りを抱いていないと言えば嘘になるな」

🧣 エキドナ

「アナの肉体はマナの受け皿が全くないこと。ボクとの契約を維持するためには、彼女はオドを費やしていくしかない」

🧣 エキドナ

「アナに代わり、こうしている状態はボクが顕現し続けているに等しい。それは加速度的にアナのオドを食い潰す行いだ。今も刻々と、アナのオドは削れていっている」

スバル

「オドは、そいつの魂そのものだとかって……ってことはつまり」

🧣 エキドナ

「アナはボクと契約することの危険性を承知の上で、ボクの手を取った。そのときから、いずれは終わりがくることは想定されていたが……今は、より早い」

――だから、一刻も早く、アナスタシアに体を返さなくてはならない。

👑 望まれた

王座を諦められない、理由

スバル

「そんな体で……そんなボロボロの状態で、王様になんてなれるのかよ?」

🧣 エキドナ

「それは自分の主人のためにも、アナに権利を放棄してもらいたいという意味かな?」

スバル

(#゚Д゚)

「――ッ! ふざけんな! そんな話じゃねぇよ! 俺は……」

🧣 エキドナ

「アナは決して引かない。諦めることもしない。ボクはそれを知っている」

スバル

「……アナスタシアさんは、そうまでして自分の国が欲しいのかよ。手に入れて、すぐに手放すことになるかもしれなくても」

🧣 エキドナ

「人より短いかもしれないが、アナ自身はその短い時間を他者の何倍もうまく使う。それに、アナには王座を諦められない理由がある」

「――望まれたからだ」

真っ直ぐに黒瞳を覗き込んで、浅葱色の瞳が告げた言葉にスバルは動けない。

🕊️ 三羽目

――背後から、羽音がした

動けず、言葉が出ない。エキドナも、何も言わない。

そうして動きの止まった二人に代わり、羽音だけが冷たい夜を切り裂いていく。

また新たに一羽、鳥がバルコニーへと――。

――背後から。

スバルは変わらず、監視塔の外壁を背にして立っていた。

その背後から鳥が羽ばたくとすれば、それは監視塔の内側からに他ならない。

ならば、当然、三羽目の鳥の羽ばたきにも、導かれた者がいる。

ユリウス

「――今の話は、どういう、ことなんだ?」

立ち尽くす男の声に、鳥たちは一斉に羽を広げた。

豪雨のように凄まじい羽音を立てて、鳥たちは躊躇なく飛び立っていく。

――そして、ユリウス・ユークリウスを残して。

第六章32『何者』終了。