第六章19
『賢者の行方』
塔の番人は喋りはじめる。そして銀貨に刻まれた顔は、彼女とは似ても似つかない。
😑 冷めた目
全員が、冷めた目で見下ろしている
立ち込める砂埃、汗と泥に塗れて組み合う男女。
そして、その二人を冷めた目で見る、それ以外の面々。
(ノ`Д゚)ノ
「なんだよ、その目! 俺が、俺が悪いってのかよ!? 俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ――!!」
「スバル、あまり幻滅させないでくれ」
「少しはいいところもあると思ったけど、所詮、バルスはバルスね」
「無事に合流できたのは僥倖だ。君が目覚めてくれたのも朗報だが……状況は、どうやら口頭で説明もらえないと理解に苦しむ」
「俺も説明できるもんなら……クソ! 離せ!」
「いーぃやーぁッスーぅ!」
💇 髪を引っ張る
エミリアが、無表情で髪を引っ張る
「見てないで、剥がすのに力貸せよ……! こいつ、すげぇ怪力で……」
「鼻の下が伸びてるわよ、バルスケベ」
「伸びてねぇし、組み合わせんなよ! 応用するな! エミリアたん痛い! 髪の毛引っ張ってもあんまり助けにはならないかな!?」
(・_・)
「あ、ごめんなさい。全然、助けようとしたんじゃないの」
「そこ謝んだ!?」
巻き込まれたベアトリスは目を回し、「きゅー」と赤い顔で潰れている。
「なんや……あんな大変やったのに、えらい空気の変わりようやね」
「お兄さんが起きたからなんじゃなあい? うるさいのは苦手だけどお、お兄さんが起きたのは良かったと思うわあ」
「と・に・か・く! 全員落ち着け! ――話を、しよう」
⭕ 車座
傍目には、贅沢な布陣だ
車座になって集まる一団の中、シャウラはスバルの右腕にしがみついたまま。
左側には肩が触れるかどうかの距離にエミリアが正座。
そして膝の上にはベアトリスが陣取る。
「いやらしい」
「お前、さっきまでの惨状見てた? 俺の右側、俺が望んでこうしてるように見えるか? 骨が凄いミシミシいってんだぞ。このままだと壊死する」
半裸の美女に抱き着かれている、と字面にすれば夢のような体験だ。
実態は、完全に極められた関節の痛みの方が怖い。端的にいってもげる。
🕳️ 逸れた側
向こうも、こちらを心配していた
「空間が割れた直後、君とアナスタシア様、ラム嬢を除いた我々はあの魔獣の花畑の彼方に落ちてね。そこで紆余曲折を経て、監視塔に匿われるに至った」
「でもお、お兄さんたちはいないしい、戦えないのがわかってたから心配したわあ」
砂海の地下に落ちた時点で、スバルたちも相当、彼女らを心配していた。
お互い様だったわけだ。
「お姉さんったらすごおい取り乱しちゃって。その賢者さんに噛みついて大変だったんだからあ。今でも、思い出すと怖いくらいだったわあ」
(*ノ▽ノ)
「ちょっと、メィリィ。そういうことは言わなくていいの」
少女の発言が誇張でないのは、耳まで赤いエミリアの反応で丸わかりだ。
🙏 礼を言う
ラムに、礼を言おうとする
「――不愉快な目はやめなさい。じっと見て、何のつもり?」
「いや、ラムだよなぁって思って」
「これはもうダメね」
脳裏に浮かぶのは、地下で意識を失う寸前の出来事。
あちこちに傷を負い、勝算もなしに強敵に立ち向かう華奢な後ろ姿。
ああして傷付くことを恐れない姿に喪失の恐怖を味わい、今、二人とも生還している。
「お互い、無事でよかったなぁと。あと、最後は守ってもらって助かった」
「……時間の無駄だったわね」
(ノ゚Д゚)ノ
「そういうこと言う!?」
🤫 耳打ち
エミリアが、余計なことを言う
「大丈夫よ、スバル。ラムはちょっと照れてるだけだから」
「姉様が照れる……? 天変地異の方が説得力あるよ?」
「そ、そんなことないわよ。たぶん、ラムが目覚めるまでずっとスバルが抱きしめてたから、それでバツが悪いみたい。離れるときも乱暴だったし」
(#゚д゚)
「エミリア様!」
「あまり自分の基準で物事を考えない方がよろしいかと思います。ラムは人の心がわからないポンコツにお仕えしたいとは思いませんから」
「……そのポンコツって、私のことじゃないわよね?」
「ええ。エミリア様がちゃんと人の心が考えられる、ポンコツと無縁の存在なら、何の関係もないすっとこどっこいのお話になります」
ラムはスバルを刃のような眼光で睨みつけ、「忘れろ」と唇だけ動かした。
目覚めたとき、自分のベッドに誰かが寝そべっていた痕跡があった。
あれはてっきりベアトリスだと思っていたが――。
「おっと、忘れた忘れた。忘れましたって」
🤝 交渉
アナスタシアが、交渉していたらしい
「ああ、お話終わった? ナツキくん、うちのことなんか忘れてもうたかと思ってたわ」
「身内優先のエゴぐらいは許してほしいな。そっちも、無事で何よりだ」
「うちも真っ暗闇に投げ出されて怖い思いさせられたけどな? そこで役立てなかった分、交渉では役立ったつもりやけど」
「交渉?」
「そこの、助けてくれた『賢者』さんとの、やね」
「いやいや、うちらも困惑しとるんよ。やって、さっきまでは押しても引いてもなぁんにも答えてくれんかった人が、ナツキくんにこんなメロメロなんやもん」
「無口? これが?」
「これじゃなく、シャウラッス。お師様~」
「うぜぇ……」
「いきなり好感度百ですり寄られると、相手が美人でもこっちの好感度がゼロだから戸惑うなんて話じゃないんだよな……」
(゚▽゚*)
「――! 今、あーしのこと美人って言ったッスか!?」
「都合いい耳だなぁ、オイ!」
👀 似てる
エミリアが、妙なことに気付く
「では、お尋ねしたい。あなたはこのプレアデス監視塔に隠遁した『賢者』……という認識でよろしいでしょうか?」
「ぷいーッス」
「答えろよ! 話すって言ったばっかじゃん!」
「誰に何を聞かれても、余計なことは言わない話さない教えないっていうかぶっ刺せって言ったのはお師様ッスよ。あーしはその教えを忠実に守ってるだけッス。怒られるなんて心外ッス! 訴訟ッス!」
「そのお師様だいぶひでぇな!」
「大したことじゃないかもしれないんだけど……なんだろ。スバルとそのシャウラって子の喋り方、雰囲気が似てない?」
(゚д゚)
「俺、こんな下っ端口調で喋ってないよ!?」
「そうじゃなくて、言い回しっていうか。ほら、スバルっていつも真剣な話してても悪ふざけするでしょ? あんな感じがするの」
「ふむ……確かに言われてみれば」
「バルス並みの会話力ということ? 先が思いやられるわね」
「お兄さんの喋り方、わたしは結構好きだけどお?」
「せやけど、みんながみぃんなそれやと胃もたれするやん?」
✋ 許可
ベアトリスが、抗議する
(#゚д゚)
「まったく、勝手なことばかり言うんじゃないかしら。お前も、さっきからスバルに馴れ馴れしい上にべたべたしすぎなのよ。スバルの手を取るのに、ベティーがどれだけ苦労したと思ってるのかしら! ズルいのよ!」
シャウラは美少女がしてはいけない顔で受け流す。
関心のなさを顔だけで全力で表現し切られ、小さな堪忍袋が限界を迎える。
――が、その前にスバルのチョップがシャウラの額に入った。
「いい加減にしろ、お前」
「痛っ……くはないッスけど、虐待!? 虐待ッス……! お師様があーしに暴力振るったッス! 法廷で会おうッス!」
「うるせぇ! あと俺以外の奴ともちゃんと会話しろ! 話が進まねぇよ!」
「……いいんスか?」
「いいよ! むしろ推奨! そろそろ真面目に頼むぜ!」
(ノ*゚▽゚)ノ
「うひゃー! やったッス~! お話の許可が出たッスー! これでもう、意味深にミステリアスな美少女を演じる必要なくなったッス~! バンザーイ!」
「そんな要素、もはや欠片も残ってねぇから!!」
😖 ムズい
その質問には、答えにくいらしい
「――それで、お前が噂の『賢者』ってことでいいんだよな?」
スバルの右腕を解放したシャウラは、今は一行の真ん中に胡坐して囲まれている。
ちなみに右腕は痺れて上がらない。動かない。
「答えろ。お前が『賢者』だよな?」
「ん~、その質問の答えはムズいッス」
梅干しを食べたような、酸っぱい顔で曖昧に答えられた。
🕰️ 四百年
四百年、砂を見張っていた
「あなたが『賢者』かどうかは別として……この塔の中で、ずっと砂丘を見張っていたっていうのはあなたでいいの?」
「あ、それはあーしで間違いないッス。四百年、来る日も来る日もずーっとずーっと砂の中を見張って、聞くも涙語るも涙な渇きの日々を過ごしてきたッス……!」
(゚_゚;)
「可哀想……っ」
「エミリアたん、感化されない。お前も余計な情感交えるな」
📖 言い伝え
言い伝えの方が、間違っている
「一般的に周知されている、『賢者』としての所業は四百年、あなたが担ってきたという認識でよろしいでしょうか。シャウラ様」
「様付けだなんて照れるッス。慣れてないんで、あーしのことは普通に呼び捨てにしてくれていいッスよ」
「では言い直して。――一般的に『賢者』と知られているのは、君のことで間違いないのかな、シャウラ」
「さあ、どうなんスかね? あーしは塔からずーっと出てないわけで、外の噂なんか知っちゃこっちゃないッス。案外、変な感じに伝わってるんじゃないッスか。あーしが『賢者』なんて呼ばれてるみたいに」
締まりのない顔が一転、思慮深げな色を宿して雰囲気が変わる。
「君が『賢者』でないとしたら、『賢者』シャウラの言い伝えは丸ごと間違った伝聞ということになる。それとも、君以外に『賢者』とされるシャウラがいると?」
「その巷の『賢者』シャウラが何者かは知らないッスけど、あーしの知る限り、あーし以外にシャウラなんて名前の知人はいないッス。この名前もお師様に付けてもらったもんなんで」
『シャウラ』の名前に響きがあるのは事実だ。
シャウラもまた星の名前であり、さそり座を形作る星名――意味は『針』。
🪙 硬貨
アナスタシアが、硬貨を投げてよこす
「うちの趣味やし、考え事するときに小銭に触るんは捗るんやけど……それとは意図が別やね。ほら、王国の硬貨をちゃんと見てみたらわかるわ」
投げ渡されたのは銅貨、銀貨、金貨、そして聖金貨の四枚だ。
「お金に絵とか模様とか刻むのってどこでも共通なんだよな。不思議」
「不思議でもないよ? その貨幣がどこの出物なんかはわかるようにしとかなあかんし……それに、貨幣は常に国の歴史と共にあるもんやから。せやから、国の歴史に深く関わるもんが刻まれる」
「聖金貨が『神龍』、金貨が『初代剣聖』、銀貨が『賢者』で銅貨が『王城ルグニカ』になってるの。知らなかった?」
(゚д゚)
「え、エミリアたんが物知りキャラみたいなこと言い出しただと……!」
「っていうか、知ってて当然でしょう。お金もちゃんと見たことないなんて、スバルは買い物のときとか無意識なの?」
🥈 銀貨
銀貨に刻まれているのは、長髪の美丈夫
聖金貨には龍、金貨には目つきの鋭い男、銅貨には王城。
そして銀貨に刻まれているのは――。
「若いイケメンのお兄さん、だな。シャウラとは似ても似つかない」
「でも、世間的にシャウラと思われてるのはこの絵の奴なのよ」
刻まれているのは長髪の、精悍な顔立ちをした美丈夫だ。
当然、角度を変えてみても半裸の美女には見間違えられそうもない。
🔍 そっくり
シャウラの審美眼が、ひどい
「へー、上手いもんッスね。お師様そっくりッス」
「どこが!? あ、いや、そこに刻まれてる『賢者』がお前のお師様なら、記憶の中のお師様には似てるってことか?」
「もー、何言ってるんスか。あーしのお師様はお師様だけッスよ」
「じゃあ、改めて言い直すよ。どこが!?」
髪型も違えば目つきも違うし、そもそも人種さえも違いそうな勢いだ。
合ってるのなんて性別ぐらいなものだろう。
「あーしの見た感じ、かなり正確に捉えてるッスよ。髪の毛あるし、目と耳は二つ付いてるし、鼻と口もあるッス」
(ノ゚Д゚)ノ
「そういうレベル!? 幼稚園児の似顔絵褒めてんじゃねぇんだぞ!?」
「だって、あーしは人の顔比べるのって苦手なんスよ。男か女かが違うぐらいで、あとは大体似たようなもんじゃないッスか。……あとは大きさぐらいッスね」
「今、ベティーを見て付け足しやがったかしら、こいつ」
👃 臭い
見分けているのは、顔ではない
「そのガバガバな審美眼でよく俺がお師様とか言えたな! 人違いだよ、完全に!」
「あ。あーしがお師様のこと見つけたのは、見た目の話じゃないんで問題ないッス」
「見た目じゃないって、じゃあ何で見極めてんだよ。オーラか?」
「臭いッス」
「いやぁ、だって、こんな鼻が曲がりそうなぐらいどす黒くてエグイ臭いプンプンさせて平気な人なんて、お師様以外には考えられねッスもん」
(ノ゚Д゚)ノ
「そこまで傷付けられたのは正直初めてだよ! なに、俺そんなひどいの!?」
「なんで怒るッスか? あ、エグイって言ったからッスか? 大丈夫ッス! お師様の臭いはマジでひどいッスけど、あくまで何度も嗅ぎたくなるタイプの臭さッス!」
「女の子がゲロとか平気で言うな! あと、フォローになってねぇ!」
「だ、大丈夫よ、スバル。私、ちゃんとわかってるから。だから後でしっかり、水浴びしましょう?」
「ちゃんとわかってもらえてねぇ!」
⚡ 火花
ベアトリスと
シャウラの間で、火花が散る
「お前がスバルをどこの誰とも知らない相手と勘違いした理由はわかったかしら」
「勘違いしてないッス。チビッ子のくせに、生意気ッスね」
「生憎、そのチビッ子がお前の大事なお師様のパートナーなのよ。おっと、人違いだったからお師様でも何でもなかったかしら。失礼したのよ」
「ベアトリス様、張り合うのは終わってからにしましょう。大事な話し合いの後でなら、バルスの飼い主が誰なのかご自由にされて結構です」
「スバルは誰に飼われてもいないかしら。そこがいいのよ」
「……はいはい」
🗡️ 古馴染み
その二つの名前には、覚えがある
「あなたはシャウラだけど、『賢者』ではない。それなら、『剣聖』と『神龍』には心当たりあるかしら?」
「ケンセーとシンリュー?」
「名前はレイドとボルカニカよ」
「うげぇッス」
両者の名前に心当たりがあった、とわかりやすい反応だ。
「そりゃ知ってるッスよ。棒振りレイドと皮肉屋のボルカニカは古馴染みッスもん。別れてからいっぺんも会ってないッスけど、元気でやってるんじゃないッスか?」
🕯️ 寿命
片方は、もう死んでいる
「片方……レイドは死んでいるわ、とっくに」
(゚д゚)
「マジッスか!? 殺しても死なないような奴だったのに死んだッスか!? なんで死んだッスか!? 変なもの食べたッスか!?」
「寿命よ。天命には誰も逆らえないわ」
「寿命……ああ、そっか。そッスよね。レイド、人間だったんスもんね」
心なしかポニーテールまで力なく下がり、肩を落とす彼女は悲しげだ。
ここまでの態度や言動がどうあれ、友人の死を悲しむ姿は平等に物悲しい。
「じゃ、ボルカニカは元気なんスか」
「そっちはドラゴンだから」
「ああ、ドラゴンッスもんね。レイドより、ボルカニカの方が死んでたらよかったッスけどね~」
「すげぇ言われようだな、オイ」
❓ 名前
お師様の、名前を聞く
「レイドとボルカニカには覚えがある。……それなら、お師様の名前は知っているはずね?」
そのラムの問いかけに、スバルたちは揃って息を呑んだ。
『賢者』=シャウラの方式が崩れた今。
シャウラ以外に『賢者』と呼ばれる功績を成し遂げた者がいるのなら。
当然、その人物に会う必要がある。
「お師様の名前が気になるなんておかしな話ッスよ。本人がそこにいるんスから」
「残念だけど、あなたのお師様はトイレの便器に頭をぶつけて色々抜けたのよ」
「トイレに限定した意味ある?」
「お師様、またやったッスか……」
「また!?」
🌳 フリューゲル
その名前には、覚えがある
「じゃ、あーしの口から発表ッス。お師様の名前……そう、その名も高き大賢人! 確かに『賢者』なんて呼ばれるとしたら、相応しいのはお師様だけ!」
「前置きはいい!」
「せっかちッスね~。でも、それもお師様ッス」
自分の頬に指を立て、やけに幼い仕草で。
「フリューゲル」
「……あ?」
「お師様の名前はフリューゲルッス。大賢人フリューゲル、シャウラのお師様ッス」
そこには純粋な尊敬と感謝と親愛が込められている。
シャウラがフリューゲルへ向ける敬愛は疑いようもない。
――なにせその名前、覚えがある。
「……それ、木ぃ植えた人の名前じゃん」
第六章19『賢者の行方』終了。
スバル
ユリウス
メィリィ