リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章18

『砂の塔の番人』

目覚めた場所は竜車の中。全員が無事で、そして塔の上から、あの女が降ってくる。

🕳️ 暗い澱み

また、あの黒い場所にいる

――暗い、暗い澱みの中に意識はあった。

地にも空にも果てのない、闇だけが広がる黒い世界。

『死に戻り』するたび、何度か強制的に呼び寄せられていたような気がする。

ここにいた記憶を、外に引っ張り出せた試しがない。

出入りするのは初めてではないのに、外に出たときには入ったことを忘れる。

肉体も手足も目も耳も口もない。

上下左右もわからない。

それでも意識の中核にあるのは、耐え難く止め処ない激情――親愛であり、信愛であり、深愛。

ここへくれば、その愛情の源に出会うことができる。

意識はそれだけを学習し、再びここを訪れられたことに歓喜していた。

🗣️ 二つの声

邪魔をする声が、二つ

❓ 声

「ずいぶんと、浮かれきっているようなのデス」

❓ 声

「まったく冗談じゃないよね。ちょっとばかり運が良かったぐらいで勝ち誇って、その後も調子に乗られっ放しじゃたまらないよ」

本来なら届くはずのない声に、意識は振り返る。

振り返るには肉体が必要だ。そう考えて行動に移せば、闇はそれを与えざるを得ない。

かくして意識はナツキ・スバルになり、振り返る体と見回す視界を得た。

ただし出来損ないだ。本物のナツキ・スバルは到底再現できていない。

ナツキ・スバルを作るには、ナツキ・スバルはナツキ・スバルを知らなすぎる。

――だが、その欠落に、不完全なナツキ・スバルは気付くことができない。

🙉 理解しない

理解するための器官は、いらない

❓ 声

「並以下どころか人間以下、不完全ここに極まれりって感じじゃないか。そんな奴がさぁ、満たされていたこの僕を足蹴にするなんて何を考えてたんだ?」

二つの『意識』が揃って罵声を浴びせる。

片方は狂的に、片方は禍々しく。

だが意識だけのナツキ・スバルには、その憎悪が理解できない。

理解するための心が、脳が、用意されていない。

――なんとなく、そのための器官はいらない気がした。

欲求を覚えないものは、生み出すことも得ることもできない。

❓ 声

「怠惰! アナタ、怠惰デスね!」

肉体があると、対話する意思がないことを身振りで示せて便利だ。

気にすると見えてしまうので、気にしない。

🖤 影

前より、近くにいる

何も見えないはずの漆黒の闇、黒の中でより濃い黒を纏う影はいっそ鮮やかだ。

しなやかな指の両腕。細身でありながら柔らかさを感じさせる肢体。

それを包み込む闇色のドレス。

相変わらず、首から上は濃霧に覆われたかのように判然としない。

だが、そこに愛しい感情を抱かせる『誰か』がいることを、魂で理解している。

以前は腕と体つきだけだった人影が、今ではドレスの裾から覗く素足まで見える。

見えないのは、闇に隠れる顔貌だけだ。

❓ 影

「――愛してる」

出来上がったばかりの顎を引いて、ナツキ・スバルは応じた。

それだけのことに影が喜ぶのがわかり、申し訳ない思いが芽生える。

次の機会には、こちらからも愛の言葉が告げられるよう、『口』と『舌』が必要だ。

🛏️ 寝台

手を、握られている

目覚めた瞬間、スバルは『死に戻り』とは違う覚醒だと理解した。

周囲に光がある。肌寒さも薄れている。背中には柔らかい感触。

スバル

「ベッドで寝てる……」

白いタオルケット。枕と寝台の感触は、ここ最近で慣れ親しんだものだ。

すぐに竜車に備え付けの寝具だと気付けた。

上体を起こした瞬間、右手が誰かに掴まれていることに気付く。

ベッド脇の床に膝を突き、寝台に体を投げ出して眠るエミリアがいた。

スバル

「ぁ、は……エミリア、だよな? これ、無事に……」

左手を伸ばして頬に触れる。

白い頬は熱を持ち、その肌は常軌を逸して滑らかで柔らかい。

スバル

(´ω`*)

「おお、間違いない、エミリアだ。……可愛い、やわっこい、あったかい」

🟣 二晩

ベアトリスが、呆れた顔で立っている

ベアトリス

「――あんまりイタズラしてやるもんじゃないのよ。エミリアもずいぶん、スバルを心配していたかしら。二晩、寝てないのよ」

スバル

(゚д゚)

「おおっひょい!?」

スバル

「ベア――」

ベアトリス

「しー、かしら。聞き分けのないスバルは嫌いなのよ」

とっさに口を左手で塞ぎ、眠り続けるエミリアをそっと見下ろす。

彼女は唇をもごもごさせながら、どこか幸せそうな顔で頬を緩めていた。

スバル

「危ね危ね……で、ベア子。こっちこい。抱きしめさせろ」

ベアトリス

「何を馬鹿なことを……し、仕方ないかしら」

自由になる左腕で抱き寄せ、しっかりと胸に抱え込む。

スバル

「よかった……マジでよかった。本当に、心配してたんだぞ」

ベアトリス

「……それはベティーの台詞なのよ。スバルや姉妹の姉が見当たらなくて、ベティーたちの方がよっぽど肝を冷やしたかしら。生きた心地がしなかったのよ」

言葉の途中で、少女が顔を伏せる。

胸に額を擦り付けるベアトリスの頭を撫で、無言でしばらく再会を確かめた。

🔢 数え上げる

名前を、一人ずつ挙げて確かめる

ベアトリス

「安心していいのよ。ちゃんと全員、無事に揃っているかしら」

望外の返事に心が安らぐ。

だが、すぐにスバルはその太鼓判に嫌なデジャブを感じて顔を上げた。

スバル

「待て、ベア子。俺はぬか喜びは御免だ。本当に全員大丈夫なのか?」

ベアトリス

「む、スバルに疑われるなんて心外なのよ」

スバル

「お前がプンプンするのもわかるけど、別に疑ってるわけじゃねぇよ。お前が俺を騙そうとしなくても、結果的に騙される可能性はある。……プリステラでもそれは痛いほど実感したばっかりだしな」

何を警戒しているのか、そこまで聞かされてベアトリスは察した顔になる。

スバル

「確認するぞ。俺と、エミリアと、ベアトリス。それに、レムとラムとパトラッシュ。アナスタシアにメィリィにジャイアンと……最後にユリウス。これで全員だ」

スバル

「お前の言ってる全員ってのは、この全員で合ってる……か?」

ベアトリス

「……大丈夫かしら。それで全員なのよ。ベティーが忘れていて、スバルだけが覚えてる誰かがいるなんてこと、ないかしら」

ようやく、全員の無事という言葉に力が宿った。

🧼 抜けている

あの憎悪が、影も形もない

スバル

「……そう言えば、あの変な疑心暗鬼、抜けてるか?」

ベアトリスには意味不明の行動だが、自覚症状の有無は大事な要因といえる。

スバル

「ベア子は……いつものベア子だ。エミリアも、いつも通り可愛い」

ベアトリス

「何を言い出したのよ……」

呆れ顔のベアトリスだが、その言葉に奇妙な不快感や苛立ちは感じない。

二人に感じるのは信愛の感情だけだ。

あの地下でスバルを苛み続けた、不可解な憎悪は影も形もない。

スバル

「瘴気と遠ざかったから、でいいのか。原因不明で治療法も不明なんて、そんなおっかないのを放置しとくのも胸が悪いけど……」

📝 試験

聞き慣れない単語が、混じった

ベアトリス

「スバル、まだ具合が悪かったり、体調に不安があるなら寝ててもいいかしら。急いで起きる必要はひとまずないのよ。試験はベティーたちだけでどうにかするかしら」

スバル

(・_・)

「……なに?」

スバル

「今、なんてった?」

ベアトリス

「だから、休んでていいかしら。ズル休みじゃなく、ちゃんと具合の悪いときぐらい寝てても怒ったりしないのよ」

スバル

「なんかすごい言われた覚えがある感じの微熱トークだけど、その部分じゃねぇよ? その後で……試験って言ったか?」

ベアトリスが「しまった」という顔をした。

隠しておきたかったからではなく、休ませておきたかったから、という配慮だろう。

ベアトリス

「わかってるのよ。ちゃんと説明するかしら。本当はもっとちゃんと、落ち着いてから話した方がいいと思ってたのに……口が滑ったのよ」

スバル

「隠し事できないのが、お前の可愛くて良いところの一つだよ」

🗼 場所

ここが、どこなのか

スバル

「ここは、どこだ? 竜車の中、なんて小ボケは挟まなくていいからな?」

ベアトリス

「スバルも、想像がついていると思うかしら」

物憂げに吐息し、それから腕を組む。

少女は天井を――その向こうの外を見上げる仕草で、軽く踵を鳴らし。

「――プレアデス監視塔」

ベアトリス

「あの砂丘の果てにあった監視塔、その中にベティーたちはいるのよ」

🔵 第六層

円い、途方もなく広い部屋

軋む音を立ててドアが開くと、薄暗い空間と乾いた風に出迎えられた。

壁にびっしりとこびり付いて淡く光る苔と、そこかしこの魔法灯。

ベアトリス

「プレアデス監視塔の第六層……まぁ、最下層ってことかしら。砂海から見える塔の外見からだと、第六層は地下に埋まってる部分になるらしいのよ。砂の上に出るのは第五層から……といっても、あんまり区別はつかないかしら」

床は一面石造りで、空間のど真ん中にぽつんと竜車が鎮座している。

その竜車を中心に広がる円形の空間は、ざっと半径で二、三百メートル。

楕円ではなく、正確に円形として建造されているのなら。

その正確さと、掛けた手間の膨大さに空いた口が塞がらない。

スバル

「……大昔の無駄手間って考えると、ピラミッドとかが思い浮かぶな」

ベアトリス

「ぶつくさと、またわけわからんこと言ってるみたいなのよ」

🦕 ジャイアン

地竜の無事を、確かめる

スバル

(ノ*゚▽゚)ノ

「おー、ジャイアン! お前も無事で何よりだ! ジャイアン、死んじゃいあん!」

ベアトリス

「なんで急にそんなくだらないこと言い出したのかしら!?」

スバル

「いや、やっとかなきゃいけない気がして。でも、無事で嬉しいのは本気だぜ」

デザート仕様のガイラス種はタフが売り。

その文句に恥じないしぶとい生き様を見せ、ジャイアンは難局を乗り切った。

ベアトリス

「そろそろ、小芝居も落ち着いていい頃なのよ。疲れるからいくかしら」

🏥 第四層

パトラッシュとレムは、上にいる

スバル

「いや……ジャイアンがここにいるのに、パトラッシュが見当たらないなって」

ベアトリス

「早合点するんじゃないかしら。あの地竜……パトラッシュなら、第六層には置けないから第四層にいるのよ」

スバル

「四層? 上ってこと? なんで?」

ベアトリス

「ケガしてるから治療中かしら。竜車の中に姉妹の妹……レムの姿もなかったはずなのよ。状態が思わしくないのはみんな、四層に置かれているかしら」

スバル

(゚д゚;)

「治療中って……レム、治るのか!?」

思わず飛びついてしまう。

その剣幕にベアトリスは驚いた顔をするが、すぐに近付くスバルの鼻を摘まんだ。

ベアトリス

「結論から言うと! すぐにどうこうってことじゃないのよ! ただ、寝かせているよりマシな状況にしたってだけかしら! 地竜もそうなのよ!」

スバル

「……そうなのか」

ベアトリス

「ほら、凹んでる場合じゃないかしら。なんとかする方法はきっとあるのよ。それを確かめるために、今はみんなで監視塔の試験に挑んでるかしら」

🪜 螺旋階段

上まで、何段あるのか

ベアトリス

「階段かしら。よく見ると、ちゃんと壁のあたりに階段があるのよ」

円状の外縁に段差がある。

それは膨大な量の段差となり、広大な円形の塔をぐるりと回る螺旋階段を呈していた。

スバル

(゚д゚)

「え……? これ、上るの?」

ベアトリス

「これを上るかしら。頑張れば、そんなに時間はかからないのよ」

スバル

(ノ゚Д゚)ノ

「頑張ればって言われても……上まで何段あるんだよ!?」

その声は空しく塔の中に木霊し、おそらく相当上まで響いて、悲しく消える。

ベアトリス

「その意気かしら。ファイトなのよ。ベティーも応援するかしら。――上に着いたら呼んでくれると、とても助かるのよ」

スバル

「させねぇよ、ショートカット!? お前も一緒にこいよ。歩け! 汗を掻け!」

💥 着弾

上から、何かが落ちてきた

ベアトリス

「マズいかしら。スバル、下がるのよ――!」

胸に飛び込んできたベアトリスを受け止め、抱え上げる。

ベアトリス

「馬鹿! だっこしろって意味じゃないかしら! 下がるのよ!」

――直後、凄まじいプレッシャーが頭上に発生する。

その圧迫感の原因は猛然と迫り、次の瞬間にはスバルの眼前へと着弾した。

激震が巨大な塔を揺るがし、生まれた爆風と砂煙に吹き飛ばされかける。

背後にジャイアンの巨躯がなければ、転げ回っていたことだろう。

🌟 歩いてくる

煙を破って、女が現れる

煙を引き裂くような突風と、その向こう側から堂々と姿を見せる人影。

――それは間違いなく、スバルが意識を失う直前、最後に見た顔だ。

黒に近い褐色の髪をポニーテールにして、大胆に手足を露出した装い。

その上から黒いマントを羽織った、ずいぶんと偏った衣装の人物。

背丈はスバルと同じぐらいか、やや向こうの方が高い。

気だるげだが、目力のある美貌があった。

スバル

「……お前が、『賢者』なのか?」

女は目の前にくるまで何も答えず、しげしげとこちらを見るだけだ。

その視線は全身を舐めるようで、正直、落ち着かない。

ケンタウロスを容易く葬り、想像を絶する距離から飛び降りても平気な人外。

下手を打てば、即座に消し炭にされてもおかしくない相手だ。

スバル

「お、おいって……聞いてる? ほら、あの、俺の仲間が世話になってるって話で、別に敵対するつもりとかない……んですよね?」

😄 溶ける

女の顔が、笑顔に変わる

🌟 女

「……三つ」

スバル

「へ?」

その声はやや掠れてはいたが、続けて聞けばおそらく美声と判断できるハスキーボイス。

心情の読み取れない目の前の女にしては、可愛げがあるなとぼんやり思う。

🌟 女

「ま、それはいっか。そんなことより、見つけた」

それまで真剣に、内を覗き込もうとするかのような態度だったものが。

ゆっくりと大きく、時間をかけて、凍ったものが溶け出すかのように。

女の口元が横に広がり、それは笑顔と呼ばれる形になって。

「――お師様」

スバル

(゚д゚)

「……は?」

🤗 タックル

シャウラと、名乗る

予想外すぎる反応に呆気に取られて、スバルは後ろを振り返る。

当然だが、そこにはジャイアンの姿しかない。

スバル

「お前、ここにきて急に重要キャラのフラグ立ててきたのか!?」

ベアトリス

「そんなわけないかしら! 現実を見るのよ!」

シャウラ

(ノ´▽`)ノ

「お師様ぁ! もうもうもう! 待ってたッスよ~!」

飛び込んできた女のタックルを食らい、押し倒される形になる。

間に挟まれるベアトリスが「むきゅー!」と悲鳴を上げた。

シャウラ

「お師様! お師様! 長かったッス! 寂しかったッス! もうずっと、このまま近付く奴らを狙撃するだけの人生かと思ったッス!」

スバル

「ま、待て! 待て待て! なんだ!? 何の話だ!?」

シャウラ

「なんだってひどいッスよぉ! お師様が命令したんじゃないッスかぁ。祠に近付く奴らの邪魔をしろって……方法はまぁ、別ッスけど」

スバル

「そもそも、お前は誰で! なんなんだ!」

シャウラ

「何を言ってるッスか! シャウラッス! プレアデス監視塔の星番! お師様の可愛い教え子のシャウラッスよぉ!」

スバル

(ノ`Д゚)ノ

「覚えがねぇ――!」

🦵 えい

エミリアが、飛び出してくる

エミリア

「――大変! 大変よ! 起きたらスバルがどこにもいないの! みんなに急いで知らせて、探しにいかなきゃ……」

焦燥感でいっぱいだったエミリアは、竜車を出たところで絡まり合う二人を見つける。

――と、実はベアトリスもいるのだが。

スバル

「エミリア……たん! 起きてくれて助かった! 実はこいつが……」

エミリア

(・へ・)

「えい」

スバル

(ノ゚Д゚)ノ

「痛い!? エミリアたん、なんで今、俺蹴ったの!?」

エミリア

「よくわからないけど、すごーくもやもやしたの」

騒ぎに気付いたユリウスたちが合流するまで、『賢者』(仮)との悪戦苦闘は続いた。

第六章18『砂の塔の番人』終了。