リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章8

『砂丘の洗礼』

アウグリア砂丘へ踏み込む。思ったより穏やかだ、と口にした直後に、砂の下から出てくるものがあった。

🦕 ガイラス種

砂に強い地竜に、乗り換える

――出発の朝がきた。

休息日を一日入れて、事前の根回しや聞き込みをした翌々日だ。

スバル

(゚д゚)

「ほあー、これが……」

ユリウス

「砂丘越えのための地竜――砂地に強い、ガイラス種だ。砂風や乾燥に適応した種族で、揃って大型だが気性は穏やか。扱いやすさで知られる、このあたりの固有種だよ」

砂の支配する広大な道を行く上で、一般的な地竜の足では難所を乗り越えられない。

ここまで街道を引いてきてくれた地竜を切り替えることになる。

平たい頭部に、棘のような鱗を体中に生やした黄色い地竜。

特徴的なのは、足の造りだ。

太く短い四足の先端はいずれも丸まり、鋭い爪がスパイクの役割を果たしている。

スバル

「うっかり踏まれたら取り返しのつかないことになりそうな足だな」

ユリウス

「アウグリア砂丘の砂は粒子が細かい。こうした足でないと、斜面を滑り落ちてしまいかねないんだ。ガイラス種の足の変化はそのための適応と言われている」

🐴 祖龍の系譜

パトラッシュだけは、連れていける

スバル

「砂地に適応したこいつらがいくような場所に、俺のパトラッシュ連れてって大丈夫なのか? うちの陣営きっての淑女に無理はさせられねぇんだが」

ユリウス

「君の愛竜は全ての地竜の祖とされるダイアナ種だ。かつては陸海空のいずれにも覇を唱えた最初の祖龍の系譜……どんな環境であろうと、一定以上の適応力がある。残念ながら、私のシャクナールには町で待機してもらうことになるがね」

シャクナール、というのはユリウスの愛竜である青い地竜だ。

彼の地竜も『暴食』に名前を喰われたユリウスのことは忘れている。

だが躾の行き届いた地竜は、騎竜者が誰であろうと礼節を欠かさない。

この一ヶ月半の旅路で、以前に近しい絆は結ばれた様子だった。

それだけに、愛竜を町へ残していくことへ忸怩たる思いがあるだろう。

ユリウス

「それにしても、自分の愛竜を身の周りで一番の淑女扱いとは……地竜に対する扱いがわかってきたと君を褒めるべきか、あるいは君の周りにいる女性陣への評価に対して苦言を呈するべきか判断に迷うところだ」

スバル

「……実際、パトラッシュの女子力の高さは侮れないところがあるんでな」

感傷に浸る眼差しも一瞬のこと。

即座に揶揄するような発言で、自分の胸中を押し隠した。

🚐 車輪だけ

竜車は、キャンピングカーのような造りだ

目立った変化は車体の下部――車輪回りと、砂避けを取り付けた窓枠ぐらい。

長距離移動用に色々と工夫の凝らされたこの竜車。

車内の前方には座席の並ぶ空間。

真ん中から後方にかけては、簡単な生活用のスペース。

居住性を確保した上で、乗客数は最大で十名。

スバル

「電気も電化製品もなくても、魔石加工の魔石細工で代用できる道具はある。つくづく、人間ってのはどこでも便利を追い求める生き物なんだよなぁ」

🌸 邪な煩悩

ラムが、いつもの調子で絡んでくる

ラム

「――しみじみと何を語っているのか知らないけど、準備は済んだの、バルス?」

スバル

「前準備は昨日の内に済んでるからな。物の準備は十分。あとは心と体の準備になるけど、そっちも俺は十分ってとこ。お前の方こそどうだ?」

ラム

「そうね。何日も車中で過ごすと考えると、どれだけ気遣っても安心とは言えないわ。か弱いラムたちでは、砂丘の真ん中で襲われても助けを呼べないし」

エミリア

( ̄^ ̄)

「――大丈夫よ、心配しないで」

エミリア

「たとえ何が襲ってきても、中のみんなのことはちゃーんと私が守るから。外にはスバルやユリウスもいるんだし、ばっちりなんだから」

スバル

「さすが、心強い。ほれ見ろ、ラム。エミリアたんもこう言ってるし、安心しろよ」

ラム

(¬_¬)

「そうですね、エミリア様。ラムも大変、心強いです。しかし、何も襲ってくるのは害意ある存在だけではありません。中には邪な煩悩の働く輩も……」

意味ありげな視線が、意味ありげなままスバルの方へ向いた。

スバル

(ノ゚Д゚)ノ

「お前、もう一ヶ月近くも平和な夜を過ごしててまだそんな疑ってんの!? 俺がお前の前でそんな盛ってたことなんかねぇだろ!? そんな勇気ねぇよ!」

ラム

「それを声高に主張するのも情けない話だけど、この車内の美観率だとどんな風に血迷ってもおかしくないわ。ラムは常々怯えているのよ。乙女心を察しなさい」

スバル

「怯えてる? 脅してるじゃなくて?」

🩺 切れ味がない

ラムの毒舌が、鈍っている

スバル

「姉様、体調は大丈夫か?」

ラム

(・_・)

「……らしくもない。どうしたというの?」

スバル

「お前の心配は杞憂だけど、俺の心配は杞憂か? それが確かめたいだけだよ」

ラム

「バルスのくせに、気が回るなんて生意気だわ」

顔色が悪いわけでも、息遣いが苦しげなわけでもない。

ともすれば普段の振る舞いと変わらずに見える。

だが彼女は、スバルの言葉を否定しなかった。

強がりはしないし、隠そうとも図らない。

そのあたり、ラムは意外と真摯だ。

スバル

「毒舌にいつもの切れ味がないからな。本格的に体調が悪いなら……」

ラム

「二十日もかけてここまできて、目的を目前にして足踏みしろというの? いつものことだけど、今日は特に笑えないわよ」

エミリア

(#・へ・)

「ラム、そんな言い方しないの」

❄️ 毎日の治療

本職と同じようにはいかない

エミリア

「スバルだってラムのことを心配してるのよ。それにラムのことは私だって心配。ちゃんと毎日、ロズワールに言われた治療はしてあげてるけど……」

スバル

「治療、で呼び方いいのか安定しねぇけど、やっぱり本職じゃないもんな。エミリアたんやベア子がやってても、ロズワールほどうまくいかないか」

ラム

「……それを理由にするつもりはないわ。迷惑も、かけないつもりよ」

スバル

「心配はかけてるぜ?」

ラム

「いつものバルスなら誤魔化せている程度には堪えているわ」

スバル

「いつものラムじゃないから、誤魔化されてやれねぇんだよ」

静かな言葉の応酬。

睨む彼女の眼には、やはり覇気に欠けている。

🛞 置いていかない

ラムは、離れる気がない

自覚があったのだろう。

吐息をこぼし、車中を振り返る。

座席のすぐ隣、そこに置かれる車イスと、その上の一人の少女を見た。

竜車の座席を取り外し、車イスを設置できるように改造したスペースだ。

眠る少女は、やり取りにも気付かず眠りの中に残り続けている。

ラム

「置いていく、なんてさせないわよ。そもそも、置いていかれたところでラムの苦しみが改善されるわけじゃないから。むしろ、エミリア様から引き離されれば今のラムにとっては死活問題よ。殺す気?」

スバル

(・∀・;)

「早まるなよ。最初から置いてくなんて一言も言ってねぇだろ。それにお前を残してくって話になるなら、当然、エミリアたんだって置いてくっての」

エミリア

(#`ω´)

「む! スバル、私はそんなの絶対に嫌だからね」

スバル

(ノ゚□゚)ノ

「だーかーら、大丈夫だって! ただ、俺はラムに確かめときたいだけ!」

☝️ 無理やり助ける

隠すな、誤魔化すな

スバル

「ラム。お前が普段の調子じゃないことなんてお見通しだから、なんかあったらすぐに言えよ。隠そうとか誤魔化そうとかすんな。そんなことしても無理やり助ける」

指を突き付けて断言してやると、ラムは珍しく鼻白んだ顔をした。

エミリア

(*´艸`*)

「ふふっ」

エミリア

「私、スバルのそういうところ、すごーくいいと思うの」

スバル

(*゚▽゚*)

「……え!? 今、惚れ直したって意味!?」

ラム

「寝てるレムの前でそういう話はやめなさい。女の害敵」

スバル

(゚д゚)

「女の敵じゃなくて害敵!?」

🦵 定位置は外

ラムに、蹴り出される

細い足を伸ばして、竜車のステップに立つスバルを乱暴に蹴り出そうとしてくる。

スバル

(゚д゚;)

「わ、ちょ、おい! 何すんだよ、落ちる!」

ラム

「落ちるはともかく、バルスの定位置は中じゃなく外よ。自慢の地竜に跨って、ラムたちの竜車の安全を血眼になって確保なさい。ほら、さっさと」

スバル

「さっさとじゃなくて、お前はお前で今の話をちゃんと……」

ラム

「――聞くだけ聞いたわ。だから、いきなさい」

固い声。

蹴りが、より鋭さを増してくる。

スバル

「ならひとまずいいか。でも、とにかくお前は……もがっ」

ラム

「いきなさい」

――ドスッ。

不意打ち気味の蹴りが鳩尾に入り、のけ反ったスバルが竜車の外に落ちる。

🍬 飴細工

エミリアは、それが嬉しい

ラム

(・_・;)

「……エミリア様、そのお顔はなんでしょうか?」

エミリア

(*^ω^*)

「ううん、別になんでもないの。でも、なんだかラムが可愛いなって思って」

ラム

「心外な評価です。エミリア様にしては生意気ですよ」

エミリア

「ふーん」

からかわれたことで口が滑り、ラムが珍しく自分の失態に頬を強張らせた。

エミリア

「いつもスバルには見せてる顔、やっと私にも向けてくれる気になった?」

ラム

「……気が抜けていました。ご無礼をお許しください」

エミリア

「別に怒ってないわ。むしろ、ちょっと嬉しいぐらい。そうしてくれる方が、なんだかラムが心を許してくれるみたいだもん。私、スバルが羨ましかったから」

ラム

「エミリア様も変わられました。初めてお会いしたときは、ガラス細工のような硬くて脆い覚悟しか持たない方に見えていたのに」

エミリア

「今の私は、もうちょっとは強そうに見える?」

ラム

( ̄ー ̄)

「ともすれば甘く……ガラス細工が飴細工になったようにも思えますが」

エミリア

(≧∀≦)

「わ、ラムってば厳しい」

🏜️ 突入

草原が、砂原に変わる

――アウグリア砂丘の攻略は、それから数時間後に開始された。

ミルーラの町から東へさらに十数キロ。

竜車で小一時間ほどの距離から、砂地が始まる。

乾いた砂と瘴気を孕んだ風が強くなる。

足下の草原が砂原に変わる。

いよいよ、アウグリア砂丘への突入といった塩梅だ。

今回の編成は竜車が一台と、竜車を引くガイラス種が一頭。

そこにスバルを乗せたパトラッシュが並走する。

🟣 二人乗り

ベアトリスは、腕の中にすっぽり収まる

ベアトリス

「しいて言うなら、この地竜の今の不満はたぶんベティーの方にあるのよ」

スバル

「そりゃ穿ちすぎだろ。パトラッシュはそんな器の小さいドラゴンじゃねぇよ」

ベアトリス

「……スバルはもう少し、周りを見る目を養った方が賢明かしら」

以前に比べて、スバルの騎竜技術もだいぶ上達した。

これまではパトラッシュの気遣いに甘えるばかり。

今では一端の騎竜者見習いといったレベルだ。

ベアトリス

「プライドの高い地竜は主人以外は乗せたがらないものなのよ。中でも、スバルのこの地竜はとびきりかしら。ベティー一人なら絶対に乗せたりしないはずなのよ」

スバル

「それはお前が単純に、地竜に乗るのが下手だからじゃなくて?」

ベアトリス

「それが理由なら、スバルがこの地竜と仲良くやれてた理由がなくなるかしら」

おっしゃる通りで。

パトラッシュの目にスバルが適った理由が、どこかにあるはずなのだ。

💢 嫌がらせ

パトラッシュが、わざと揺らす

スバル

「まぁ、好かれてる理由がわからないのは据わりが悪いってのは事実だ」

ベアトリス

「そうなのよ。スバルは理由なしに好かれるほどの見た目じゃないかしら」

スバル

( ̄ー ̄)

「……つまり、お前は確固たる理由があって俺のことが大好きだと」

ベアトリス

(//ω//)

「それはもちろん、ベティーは……何を言わせるつもりなのよっ!?」

――ぐんっ。

背中の上のやり取りに不満があるのか、パトラッシュが上体を持ち上げて二人を揺らす。

スバル

(゚д゚;)

「お、わっと!」

『風除けの加護』の力で騎竜の揺れも風も感じない。

だが大袈裟な動きや急旋回の角度の変化は、影響を受ける。

その特性を理解した上での嫌がらせだ。

スバル

「なんか気位の高さだけ見てるとラムに似てるな。意外と気が合いそうだ」

ベアトリス

「もしくはぶつかり合って、絶対に分かり合えないかのどっちかかしら」

🦂 御者台の隣

メィリィが、拗ねている

ユリウス

「――スバル、ベアトリス様。仲睦まじいのも見ていて微笑ましいが、そろそろ本格的に気を引き締める頃合いだ」

御者の役目に徹する姿は、いささか彼に似合わない役回りに思える。

もっとも、そのことを気にかける余裕もないのかもしれない。

なにせ彼の隣には。

メィリィ

(¬_¬)

「お兄さんとベアトリスちゃんが仲良しなのはいいけどお、あんまり放っておかれると私も拗ねちゃうんだからあ」

魔獣対策要員であるメィリィには、常に働いてもらう必要がある。

そのため、竜車の前方を把握できる御者台にスタンバイしていた。

故の彼女の退屈しのぎを、延々とユリウスが引き受ける形になっている。

スバル

「お前のエスコートは隣の騎士様がやってくれてるだろ? 俺よりよっぽどスマートでスタイリッシュでエレガントなはずだぞ」

メィリィ

「半分以上、何言ってるのかわかんなあい。それに騎士様に不満があるわけじゃないものお。私はお兄さんに不満があるのお」

📋 まずは役目

権利より先に、仕事がある

メィリィ

「私を引っ張ってきたのはお兄さんなんだしい、お兄さんが私の相手をする義務があると思うのよねえ」

スバル

「そんな聞き分けのない子どもみたいなこと言い出すなよ。見ての通り、その枠はベア子で満杯なんだよ。な?」

拗ねる様子は歳相応だが、彼女の機嫌は今後の道行きに大きく影響する。

メィリィを蔑ろにするのは、勇気がいる。

スバル

「お前の言うことはもっともだ。けど、権利だの義務だの言い出すのは、まずは自分の役目をしっかり果たしてからにしてもらおうか」

メィリィ

「私のお役目、ねえ」

スバル

「もうすぐ砂丘の大本命に入る。入っていきなり魔獣がガオーとは思わないが、そうなったときに奴らを宥めるのがメィリィの仕事さ。わかってるだろ?」

メィリィ

( ̄ヘ ̄)

「……はあい。ベアトリスちゃんは甘やかすくせに、お兄さんのイジワル」

⏰ 一日に三度

『砂時間』が、行軍を区切る

アウグリア砂丘名物、『砂風』。

特に強く風の吹く『砂時間』が存在する。

一日に三度。

午前・午後・深夜の時間帯にそれぞれ吹き抜ける。

東から西へと砂と瘴気を運ぶ、静かににじり寄る災害だ。

特に風が強いのは深夜帯で、この間の砂風は数時間に亘って吹き続ける。

つまり夜半は、移動もままならない。

そのため攻略は日中、それも午前と午後に数時間の休憩を挟んで少しずつ進む。

地面を覆い尽くす砂の粒子は細かく、噂通りの足場の悪さに何度も足を取られる。

行軍は遅々としてペースが上がらない。

🌡️ 暑くない

思ったほど、ひどくはない

スバル

「砂風のうざったさと足場の悪さはあるけど……思ったほどひどくもねぇな」

微かに歯が砂を噛む感触はあるが、この程度の洗礼はミルーラでの時間と大差ない。

スバル

「砂丘って聞いたとき、てっきり死ぬほど暑いのを覚悟してたんだけどさ」

ベアトリス

「ここいらは自然環境の問題で緑がないわけじゃないのよ。立ち込める瘴気が何もかもを殺すから、こんな風な景色が広がっているだけかしら。だからこの砂丘には雨だって降るし、極端に気温が狂うようなこともないのよ」

砂が広がっているのは、暑さのせいではない。瘴気が全部殺しているからだ。

スバル

「最寄りの町が暑くも寒くもなかった時点で、砂丘が極端に灼熱地獄になるのもおかしな話か。ってことは、本格的に注意しなきゃは風と魔獣ぐらいだな」

ベアトリス

「それと、道に迷わないことも……かしら」

👣 消える足跡

きた道が、数秒で消える

スバル

「迷う迷わないとは言うものの、アレを見落とせって方が不自然だと思うんだが」

ベアトリス

「ベティーもそう思うのよ。でも、何が起きても不思議はないかしら。『賢者』がどんな食わせ者か知らないけど、事実、誰も辿り着けちゃいないのが証拠なのよ」

挑んだ者は誰もが、そう思っていたはずだ。

そう思って、なお辿り着けていない以上、それだけの理由があるはず。

これまで進んできた道を振り返る。

点々と砂地に残るのは、パトラッシュの足跡だ。

ただし直近のものしか残っておらず、それも数秒で流れる砂に上書きされる。

自然が用意した、天然の殺し罠だ。

正面にある監視塔はともかく、きた道を見失わせることでは非常に優秀。

ただし、それはあくまで、普通の手段しか持たない者が相手の場合だ。

🧊 氷の塔

エミリアが、目印を立てていく

スバル

「エミリアたん、お願い!」

エミリア

「――はーい、わかったわ」

スバル

「働かせてばっかりでごめんだけど、先生、お願いします!」

エミリア

(・o・)

「スバルには外を見てもらってるもん。なんてことないわ。……先生ってなに?」

スバル

「頼み事するときのお約束。ととと、お願い」

エミリア

「ん、頼まれました。――えい!」

掌で膨大なマナが渦を巻く。

加速度的に力を得た魔力は一気に空をひた走り、空気の爆ぜる音が響き渡る。

――ドンッ。

数秒後、砂原の途上に突き立ったのは巨大な氷の塔であった。

スバル

「足跡が目印にならないなら、もっと目立つ方法で目印を立てる。魔法の応用だな」

エミリア

「それにしても、ホントにスバルの悪知恵には感心しちゃう。よく思いつくわよね」

スバル

「砂丘が暑くなかった時点で、この方法ならやってやれんなって」

氷も自然の法則には逆らえないのか、熱に弱い。

本物の砂漠であれば、こうした禁じ手は通用しなかったかもしれない。

だが、事この砂丘では有効な方策だ。

最悪、撤退を余儀なくされても、あれを辿って帰れるはずだ。

🦊 一蓮托生

アナスタシアに、念を押す

スバル

「アナスタシアは?」

アナスタシア

「なんやの、ナツキくん。うちのことお探し?」

スバル

(゚д゚;)

「中にいるのは知ってたけど、エミリアたんの脇の下から生えてくると思わなくてそれにビックリしたんだよ」

エミリア

(¬_¬)

「……ねえ、スバル。なんか今の言い方、すごーく嫌だったんだけど」

アナスタシア

「うちも珍しく、普通にイラッとしたんよ。奇遇やね」

スバル

「今回の砂丘攻略、お前の知識頼りなんだ。道案内、しっかり頼むぜ?」

アナスタシア

「ナツキくんは心配性やね。同行してるんやから、この旅の成否はうちにとっても一蓮托生……手を抜くなんてありえないやろ? 安心しぃって」

ベアトリス

「……狐を信じるなんて、簡単に言ってくれるもんかしら」

まったくもってそれは同感だが、それを根拠に責め立てるのも筋違いだ。

今はつべこべ言わず、互いが互いの役回りに全力を尽くすべき。

🗣️ 失言

スバルが、余計なことを言う

スバル

「メィリィ、そっちはどうだ? 仕事してるか?」

メィリィ

「それ、私に言うのお? お兄さんもこの竜車も、まあだ一度も悪い動物ちゃんと出くわしてないでしょお? 私が働いてる証拠じゃなあい」

スバル

「そうは言っても、お前の頑張りの成果って見え難くてさぁ。魔獣がお前のおかげで出てこないのか、このあたりにいないのかわかんない……」

メィリィ

(・_・)

「……ふーん、そんなこと言うんだあ」

低い声。

何事か考えるように両手で自分の頬を挟み、黙り込む。

その様子に、スバルは素直に嫌な予感を覚えた。

ユリウス

「スバル、彼女に謝罪を。今のは明らかに君の失言だ」

スバル

(・∀・;)

「い、言われなくても俺だってわかってるって。あ、あー、メィリィ? 今のはちょっと俺が悪かった。ちょっとじゃなく、完全に俺が悪かった。機嫌損ねないでくれ。悪気があったわけじゃないんだ」

メィリィ

「……ううん、大丈夫よお。別に怒ってなんかいないわあ。ただ、お兄さんの言うことにも一理あるなって思ってだけだからあ」

スバル

「そ、そうか。よかった。お前が見た目よりずっと大人で助か……」

メィリィ

( ̄ー ̄)

「――だから、私のいる意味がわかりやすいように見せてあげるわあ」

🪱 砂蚯蚓

砂の下から、出てくる

パトラッシュが、竜車の地竜が、揃って地面を強く踏んで動きを止めた。

地竜の本能が何かの接近をいち早く察し、手綱を握る主人に警戒を促す。

――ズズ、ズズズッ。

眼前、砂の大地が突如として意思を持ったように蠢き始める。

即座に砂の下から、のたくる何かが這い出してくる。

手足はなく、長く太い胴体をくねらせる姿は蛇を思わせる。

しかし砂と同色のぬめった質感の肌。

漂う悪臭。

胴体に等間隔に刻まれる横縞の紋様。

蛇ではない。――これは、蚯蚓だ。

胴体の太さはスバルが腕を回し切れない。

頭部と口は、人間の四、五人ならば一飲みにしてしまえそうなほど大きい。

細かい歯が並ぶ口腔から滴る唾液は、音を立てて砂を蒸発させていた。

目のない頭部がこちらを向き、まるで臭いを嗅ぐような素振りを見せる。

嗅覚。それを思った直後、スバルは自分の纏う魔女の悪臭を思い出した。

👋 早く帰って

メィリィが、一言で追い払う

メィリィ

(-ω-)

「ああもう、臭あい。早く帰って、どっかいっちゃってえ」

巨大な蚯蚓はメィリィの方を向く。

しかしすぐに、その小さな少女の指示に従った。

自分が掘り進めた穴の中へと、巨体を潜り込ませていく。

数秒後、その蚯蚓が現れた穴は完全に砂に埋まり、静寂だけが周りを支配した。

ユリウス

「……今のは、おそらく砂蚯蚓だ。好んで砂地の下に潜む魔獣だが、私の知っているそれよりも少しばかり大きかった」

スバル

「少しばかりって、どのぐらい?」

ユリウス

「私の知識だと、成人男性の腕ぐらいの大きさだったはずだ」

数百倍から数千倍は、でかかった。

アウグリア砂丘では在来種の魔獣も凶暴化するという。

そのスケールの違いも、その差異の一種と考えるべきだろうか。

🙇 マジリスペクト

砂丘の怖さが、身に染みる

エミリア

(・o・;)

「い、今のすごい声、なんだったの……?」

メィリィ

「気にしなくていいわあ。あれを気にしなくていいのがどれだけ恵まれたことか、お兄さんたちにわからせてあげただけだからあ」

スバル

(ノ﹏ノ)

「いやもうホント、メィリィさんには頭が上がらないッスわ!」

メィリィ

(* ̄▽ ̄)

「そお? やっぱり? お兄さんも見直したあ?」

スバル

「ああ、マジリスペクトだ。お前がいなきゃ、ここがどんだけ危ない場所なのか身に染みて感じたぜ。アウグリア砂丘、怖っ! 怖――っ!!」

多くの命知らずの冒険者が攻略に挑み、帰ってこなかった一端がわかった。

砂丘の洗礼が甘いだの肩透かしだの、馬鹿馬鹿しい。

ベアトリス

「ずいぶんと、調子のいいことかしら。呆れるのよ」

スバル

「うるせぇな! お前もびくってなってたじゃねぇか! あー、怖っ!」

ベアトリス

(//ω//)

「べ、ベティーはスバルが緊張したから付き合ってあげただけかしら。誤解するんじゃないのよ」

想像以上に薄氷の上を歩いているのだと、意識を締め直す。

それには十分な意味があったと、顧みることのできる砂丘攻略初日であった。

⚡ 空を走る光

氷の塔が、撃ち砕かれる

唐突に光が空を走り、風を穿った。

――ドオンッ。

激しい音を立て、衝撃の直撃を受けた氷の塔が半ばで砕かれて崩れ落ちる。

粉砕された氷は即座にマナに還元される。

大地に落ちたものも片っ端から砂に呑み込まれ、残骸も痕跡も残さずに世界から消える。

光はさらに立て続けに数度、連続して空を走った。

その回数は偶然にも、銀色の少女が氷の塔を打ち立てた回数と一致する。

それが何を意味するのか、この時点では誰にもわからない。

ただ、砂の迷宮の攻略は決して容易いものではない。

そのことだけは、確かな事実であった。

第六章8『砂丘の洗礼』終了。