第六章7
『砂海を目指して』
砂丘の最寄りの町、ミルーラ。酒場の店主から、砂丘の実態を聞かされる。
🏘️ 寂れた宿場町
ミルーラは、街道の東の終着点だ
アウグリア砂丘最寄りの町、『ミルーラ』。
有体に言って、寂れた宿場町だ。
町の規模はそれなり。
だが水門都市プリステラや工業都市コスツール、王都ルグニカとは比較にならないほど小さい。
「だけど、仕方ないのかもしれないわね。地図で見ると、ここから東には本当にアウグリア砂丘しかないし……南には王国最大の大森林でしょう? 五大都市からも離れてるし、人の行き交いが少ないのもわかる」
🌪️ 砂時間
通りに、誰もいない
白いローブを頭から被り、美しい銀髪と面貌をほんのり隠した状態のエミリア。
やんごとなき立場なので、素性を含めてトラブルを招かないための配慮だ。
もっとも、布で隠す理由はそれだけではない。
ミルーラの名物『災害』である、砂風の影響だ。
「東に南に発展のしようがない上に、極めつけはこの砂風か。キツイな」
エミリアを風下に立たせ、ささやかな抵抗として風上側に立つ。
舌を動かすと、歯と歯の間を擦れる砂の感触があり、なんとも気分が悪い。
この砂を纏った風は、東の砂丘から吹き降ろすように町へ流れ込んでくる。
町の中を出歩くためには、こうした防砂ファッションは欠かせない。
🙈 目の保養にならない
砂漠のイメージと、だいぶ違う
「――? スバル、どうかした?」
「いや、砂漠って聞いたとき、イメージしてた展開とは違うなと思って」
素肌の露出を極限まで隠し、頭からすっぽりと足首までマントで覆った姿。
こうまで防御力が高い衣装では、目の保養にもならない。
砂漠といえば、日差し対策に踊り子みたいな衣装――とはなんだったのか。
🧠 心の準備
わざわざ砂の中を歩いている
「それにしても、やっぱり宿の人の言うことは聞いておくべきだったか」
「今、ちょうど『砂時間』なんでしょ? 通りに誰もいないもんね」
この環境に慣れきった町の人間は、砂風の吹く『砂時間』は屋内に立てこもる。
建物の窓やドアの隙間まで塞ぐ徹底ぶりだ。
宿の人間も、出歩くべきではないとしっかり止めてくれた。
ただ、押し切って出てきたのには理由がある。
「町の中でこれなんだ。砂丘の砂風はこんなもんじゃねぇんだろうな」
「……うん、そうね」
予行演習ではないが、わざわざ出歩く理由は心の準備のためだ。
砂丘から距離があり、建物の密集した町の中でこの視界の悪さ。
砂丘の行路の険しさは、今の内にしっかり覚悟する必要がある。
🍺 避難場所
開いていたのは、酒場だけだった
「とりあえず、どこかのお店に入らない? このままだと、私もスバルも砂の塊になっちゃいそうだから」
他の店は来店お断りの雰囲気があるが、少なくとも入口が閉ざされていない。
押し扉の前でできるだけ砂を落とし、それから中にゆっくりと入り込んだ。
🍺 店主
「……砂風の中、いらっしゃい」
低い声。
歓迎していないのは、一目で砂塗れと気付いたからだろう。
🥛 ミルク二杯
酒場で、ミルクを頼む
🍺 店主
「注文は?」
「ミルク、冷たいの」
「ミルク、あったかいの」
店主は目を細めたが、何も言わない。
「大繁盛、って雰囲気じゃねぇな……砂時間中は商売あがったり?」
🍺 店主
「ただでさえ、外の人間の出入りが少ない町だ。日の出てる間、店は開けちゃいるが道楽みたいなもんだよ」
(・∀・)
「なるほど。んじゃ、外の人間な上にお客さんである俺らはお得意様だな」
🍺 店主
「酒場でミルク頼んで得意げにされてもな。ほら、嬢ちゃんのだ」
(*^ω^*)
「わ、ありがと」
❓ 単刀直入
アウグリア砂丘のことを、聞く
「他の客もいないし、今ちょっと暇だろ? 少しだけ話、聞いてもいいか?」
🍺 店主
「たとえ本当に暇でも、勤務中の人間に暇だろなんて話しかけんのはご法度だぞ。……余所者が何を聞きたい?」
「ずばり、アウグリア砂丘のことについて」
それを聞いた店主の表情が、初めて崩れた。
灰色の短髪の渋い店主が、濃い眉の下の目を怪訝そうに細める。
☠️ 死ぬだけだ
行くならやめとけ、と言われる
🍺 店主
「何の冗談か知らんが、行楽気分でいくならやめとけ。死ぬだけだ」
( ̄д ̄)
「おいおい、何を言い出すんだよ。俺らがまさか、遊び気分に見えるってのか?」
🍺 店主
「他の何に見えたら俺の今の忠告が出てくるんだ? あそこは誰も生きて帰っちゃこない死の砂海だぞ。女との逢引きに使える場所じゃぁない」
「確かに吊り橋効果は有効的なアプローチ方法だと思うけど、俺もそこまで追い詰められてねぇよ。エミリアたんからも言ってくれ」
(・o・)
「ふーふー、あちち……え? なに? ごめん、聞いてなかった」
「見ろ、このE・M・Tぶりを」
🍺 店主
「悪いこと言わんから死ぬ前に帰れ」
ますます、店主の信頼度が下がった。
🗡️ 剣聖でも
誰も、辿り着いていない
「退くって選択肢は俺らにはないんだ。進むって道しかない以上、できることはなるたけ安全な道を選ぶことだけ。わかるだろ?」
🍺 店主
「わかってないのはお前たちの方だ。いいか? あの砂丘はどうしようもないんだ。魔獣の巣窟で、魔女の瘴気が漂ってて、遠目に見える塔には近付けない」
🍺 店主
「毎年、お前たちのような無謀な連中が砂丘目当てにやってくる。目的は砂海の中にある賢者の塔だが……誰も辿り着けやしない。生きて戻ってこれれば御の字だが、大抵の奴は砂海で干乾びるか、魔獣の餌になって終わり」
「本当に、辿り着けた奴はいないのかよ?」
🍺 店主
「砂海に塔が建ったのが何百年前だと思ってる。あの場所を目指す馬鹿野郎の数は減らないのに、到達者がいるなら名乗り出ないわけがない。知らないのか? そいつは『剣聖』でも失敗した功績になるんだぞ」
プレアデス監視塔の攻略は、ラインハルトさえも失敗した挑戦だ。
当のラインハルト自身から聞かされている。
ただそれでも、越えなくてはならないのが今のスバルたちなのだ。
💀 正論
無策は論外、愚策は下策
「もちろん、無策で突っ込むような馬鹿はやらねぇよ。そのための情報収集だ。酒場でやるのは基本だろ?」
(・_・?)
「そうなの? どうしてお酒を飲むところで?」
「詳しいこと聞かれるとわかんないけど、たぶん、酒飲んでみんな口が軽くなってるから色んな噂話が流れ込むとかそんなん?」
🍺 店主
「つまりは酔っ払いの与太話ってわけだ。無策で突っ込むのもいただけないが、愚策に偏るのもよくないと思うぞ」
(ノ゚Д゚)ノ
「ぐえー! 正論が突き刺さる!」
普段の会話ペースも、相手がいい大人になるとたじたじだ。
無鉄砲に砂丘に挑む人間を相手にするのは、慣れたものなのだろう。
❄️ 頭を下げる
エミリアが、先に謝る
🍺 店主
「大体、女の子まで連れてるのにあんな地獄にだなぁ……」
「ごめんなさい、店主さん。さっきから心配してくれてるのに、スバルが文句ばっかり言ってて」
謝罪から入る言葉に、店主は目を丸くした。
「顔見知りでもないのに、色々とありがとうございます」
🍺 店主
「いや、こっちも口うるさいようで悪いな。ただ、間違ったことは言ってないつもりだ。お嬢ちゃんたちみたいな若い連中が毎度毎度、な」
🏅 名誉欲
挑む連中の目的は、たいてい名誉だ
「そんなに何人も、『賢者』に会いにいこうとするんですか?」
🍺 店主
「本当に『賢者』に会おう、なんて気概の奴はそんなにいないだろうさ。大抵の奴はアウグリア砂丘を攻略する名誉欲だな。あわよくば賢者に知恵を授けてもらおうなんて連中もいるんだろうが、塔に辿り着ければ褒美が貰えるなんてのも眉唾さ」
「それは、塔についても『賢者』に会えないってこと……?」
🍺 店主
「そこまで辿り着いた奴の話も聞かない。噂じゃ賢者様は今も、塔の上から砂丘を見下ろして、不埒な輩に天罰を下すって話だが……見たわけじゃないしな。俺にはあの砂丘自体、餌をぶら下げて獲物を狩るための罠に思えてならんよ」
餌をぶら下げて、獲物を狩るための罠。
🐺 魔獣の種類
あの砂丘には、あらゆる種類がいる
「魔獣と瘴気、って言ってたっけ。それって?」
🍺 店主
「言ったまま聞いたままさ。あそこは魔獣の巣窟……魔獣は王国の各地に色んな種類がいるが、あの砂丘はおかしなことにあらゆる種類がいる」
興が乗ってきたのか、声を潜めながらも饒舌だ。
🍺 店主
「斑王犬やら黒翼鼠は可愛げがある。固有種の一角獣と砂蚯蚓はここでしか見られない。あとは砂地に花畑があったら花魁熊の狩場だ。悪夢だと思え」
「花魁熊……」
🍺 店主
「本当はカララギの方にしかいないらしいんだがな。体中に花が咲いた魔獣だ。見た目に騙されて近付くと、腸を啜られるぞ」
(゚д゚;)
「さすが魔獣……えげつねぇ……」
魔獣は人類を殺すための獣。
🌫️ 汚されたマナ
瘴気の正体は、汚染されたマナだ
🍺 店主
「だが、砂丘で一番警戒しなきゃならんのは魔獣よりも瘴気の方だ。砂風やら環境の変化も危険ではあるが、瘴気の方が優先度は上だな」
「その瘴気ってのがピンとこないんだよな」
単語自体は何度も耳にしているし、字面で想像できなくもない。
要するに体や精神に悪い影響を与える、見るからに体に悪そうな空気のことだろう。
「えっとね、スバル。瘴気っていうのは、言っちゃえば悪いものに汚染されたマナのことを呼ぶの。目には見えないけど、でもどこにでもあるでしょ?」
(゚д゚)
「え、マナが瘴気なのか?」
マナが魔法使いや精霊にとって、大きな影響力を持つのは事実だ。
だが、ただ生活したり騎竜して移動するだけなら、さほど問題にはならないはず。
「瘴気を甘く見ちゃダメ。元々、普通のマナは何の色も指向性もない純粋なもの。だけど瘴気……悪いモノに汚されたマナは、ゲートから取り込むだけで生き物の体の中を悪くするの。ゲートが自然にマナを取り込む器官な以上、それは避けられない」
「ずっと息を止めてる、ってわけにはいかないからか」
🍖 食い物も飲み物も
砂丘の瘴気は、その上をいく
🍺 店主
「嬢ちゃんの認識で正解だが、アウグリア砂丘に漂う瘴気はその上をいくぞ。――あそこの瘴気は生き物はもちろん、食い物や飲み物までダメにする」
「食べられなくなるって意味?」
🍺 店主
「食べたら一気に瘴気の汚染が進むって意味だ。ゲートから微量に取り込むだけでも発狂モノだぞ。直接、胃袋から取り込んでみろ。汚染に呑み込まれる」
「そうなると、どうなるんだ? 頭がおかしくなるだけで済まないのか?」
🍺 店主
「狂い死にするってのが通説だ。実際は……まぁ、否定はできんよ」
言葉少なに首を振る店主、その顔色は悪い。
直接的に口にはしなかったが、おそらく彼は見たことがあるのだ。
瘴気に侵されて発狂し、死に至った人間の最期を。
🐦 鳥を探せ
砂丘へ飛んでいく鳥がいる
🍺 店主
「あんなところ、行かずに済むならその方がずっといい。そうしろ」
「――ミルク、ご馳走様でした。お話も、ありがとうございます」
途中から、柔らかに話を聞き出されている自覚はあったのだろう。
その上でここまで言葉を続け、方針を曲げさせようとした。
ただ悲しいかな。それでも、目指す場所は変わらないのだ。
「御代は置いておきます。スバル、いきましょう」
ミルク二杯には高すぎる支払いだが、情報と気遣いの分のチップが込みだ。
🍺 店主
「――ここ一年ぐらいの話だが、砂丘の方へ飛んでいく鳥を見かけるようになった」
振り向くと、店主はこちらに背を向けている。
グラスを拭きながら、独り言のような調子で続ける。
🍺 店主
「見かける連中の話じゃ、その鳥は塔を目指して飛んでるなんて笑い話が広がってるぐらいだ。何の根拠もない話だが……」
🍺 店主
「もしも砂丘で頼りがなくなったら、鳥を探してみろ。運が良ければ、塔まで連れていってもらえるかもしれん」
🍺 店主
「砂丘で頼りがなくなる時点で、運は最悪に決まってるがな」
🦿 片足
エミリアは、気付いていた
外へ出ると、砂風の勢いはだいぶ弱まっている。
「いったん、宿に戻ってみんなと合流しましょう。アナスタシアさんたちも戻ってきてる頃かもしれないし」
「そうだね。向こうの収穫も気になる」
酒場が見えなくなるまで離れたあたりで、エミリアが小さく呟く。
「さっきのお店の人、片足がなかった」
「……気付かなかったな」
「どこでしたケガかわからないけど……でも、そういうことじゃないかな」
見ず知らずの旅行者二人に、結構に親身になって砂丘の危険性を訴えた店主。
それが彼の経験談による忠告だったとしたら。
その気遣いを振り切って砂丘へ挑む自分たちは、ひどい奴らだ。
そんな風に感じた。
🧣 宿へ
アナスタシアも、戻っていた
「ナツキくんとエミリアさんも、無事にお戻りみたいやね」
一行が宿泊する宿は、ミルーラでは一等まともな宿である。
プリステラの『水の羽衣亭』などに比べれば見劣りするが、そこは都市レベルの格差だ。
「ユリウスは?」
「うちを宿に送り届けたあと、ちょっと町を見て回るいうてな。たぶん、砂に目を慣らしとるんやと思う。ナツキくんたちとおんなじやね。どうやった?」
「防塵ゴーグルが欲しいってのが本音だな。透明なガラスみたいなので、顔のこのあたりを塞ぐみたいに覆うんだ。作れないか?」
(・o・)
「ガラス細工やと強度に問題があるけど、一考の価値はある……か。砂風問題はカララギでも無関係やないし、使える考えかもしらんね」
( ̄д ̄)
「先々の特許関係の話がしたいわけじゃねぇよ」
🪢 綱渡り
どこも、誰か一人に頼りきりだ
「問題は砂より、魔獣や瘴気の方みたい。瘴気は私とベアトリスで微精霊に働きかけてみるけど……魔獣はメィリィに頼りきりよね」
壁越しに隣の部屋の方へ視線を向ける。
そちらは現在、メィリィの監視にベアトリスがつく形になっているはずだ。
心情的には裏切らないと信じたいところだが、前科が前科である。
母親との繋がりが切れたとも言い切れない。
彼女の母親が口封じを試みない、とも限らない。
「そいでもって、道案内はアナスタシア頼りと。綱渡りだな」
( ̄ー ̄)
「いつものことといえば、いつものことだけどね」
「違いない」
🛞 車輪回り
竜車は、砂用に組み替える
「出かけた目的、ちゃぁんと果たしてきたから安心してな? 竜車の車輪回りの調整と、砂丘に入るうちらの扱いはこっちの要求通りになるはずやから」
「そう……ごめんなさい。なんだか全部、やってもらっちゃって」
「ええよええよ。代わりにうちは戦力的に、エミリアさんを当てにさせてもらうし」
通常、竜車は整備された街道か、少なくとも道を走ることしか想定されていない。
だが今回の行路は大部分が砂の道で、通常の竜車では移動もままならない。
竜車を置いて地竜に乗って移動するのは手だが。
こちらには女子供が多く、意識のないレムもいることを考えれば現実的ではなかった。
「パトラッシュは置き去りにできないけどな。それを置いていくなんてとんでもない」
(・∀・;)
「あの子、すごーく賢いもんね。置いてくなんて話してたら、スバル、噛まれちゃうんじゃないかしら……」
📜 一筆
何があっても、自己責任という取り決め
「で、竜車じゃない方の交渉は……」
(´∀`)
「交渉ってほどのもんともちゃうよ。向こうが不安がるのを宥めて、ちゃぁんと言って聞かせてきたっただけやから」
愛らしく微笑んでみせるが、その笑みが見た目通りのものでないことを察する。
スバルの背中は、うそ寒くなった。
もう片方の用件は、砂丘に臨むための通過儀礼だ。
王選候補者の二人が砂丘で消息不明になった場合、その責任はどこにあるのか。
二人が王国にとって最重要のポジションにいることは周知の事実。
その二人が砂に埋もれたとあれば一大事。
責任の所在を巡って、大わらわが予想される。
そこで事前に、『何があっても、それは候補者の自己責任』という点を領主に納得させる。
一筆したためるために、アナスタシアは領主の下へ出向いていたのだ。
「それでも、止めきれんかったことで責められるかもわからんから……うちらの命はうちらのものだけやない。責任重大やね?」
( ̄^ ̄)
「それは元からそうよ。王選だとか候補者だとかだからじゃなく、私たちが『賢者』に会って、色々なことを取り戻す手段を見つけない限り、助からない人たちが大勢いるんだもの。今さら言い出すことじゃないわ」
「頼もしい限りやないの」
🦊 興味深い
鳥の話に、中身の方が食いつく
「ナツキくんたちは出歩いて収穫あったん? まぁさか、ホントにただ砂に目ぇ慣らしに出てたわけと違うんやろ?」
「まぁ、砂風の中でデートと洒落込んでたわけではねぇよ。一応、ちょっとは詳しい人間から話が聞けたつもりだ」
「お店の人が詳しかったのは、たまたまの偶然だけどね」
「酒場をチョイスした、俺の先見の明が光ったよね」
「お店を選んだの、私だった気がする……」
酒場の話をしてやると、アナスタシアは考え込む眼差しをした。
「鳥を見かける……ふーん」
「なんだよ、それが気になるのか?」
「他の話はまぁ、アウグリア砂丘に挑む上やと常識の半歩上ぐらいの話やからね。それより興味深いんは、やっぱりその変化やろね。鳥やなんて、一番、瘴気まじりの風に敏感そうやのに」
「――まさか、本当に何か思い当たる節があるのか?」
「これといっては浮かばないよ。ただ、興味深いというのは事実さ」
「そう疑わしい顔をしないように。ほら、彼女に不審に思われるよ」
襟ドナの本心が顔を覗かせるが、そう言われては引っ込む他にない。
🗼 窓の向こう
監視塔は、町からも見える
「出発は、どうする?」
「早い方がええやろ? 懸念やった竜車と話し合いは終わったんやし……積み込む荷物だけ補給したら、すぐにでも出た方がええんちゃうかな」
「明日、は性急だけど、明後日ぐらい?」
「そうしよか」
エミリアの紫紺の瞳が見つめるのは、窓の向こうの東の光景だ。
そこに町並みを乗り越えるような高さで伸びる、長大な影がそびえ立っている。
「プレアデス監視塔」
目的の塔は、ミルーラの中からも仰ぎ見ることができるほど、高く大きい。
🚪 閉ざした道
挑まないという選択肢は、ない
――あれほど大きなものを、見落とすことなどあり得るだろうか。
ミルーラに到着する前、街道の道中から見え始めた監視塔の姿。
スバルはずっと、そんな疑問を抱いている。
何をどう間違えれば、あれほどの目印を見つけられなくなるというのか。
だが、そんな風に思う一方で、酒場の店主の忠告も突き刺さる。
「無策は論外、愚策は下策、か」
何がどうあろうと、挑まないという選択肢はない。
だからこそ取れるだけの、可能性を増やせるだけの手段を選んだつもりだ。
あの店主の語った、無策で愚策な冒険者とは違うはず、そう思う。
だからこそ、スバルは気付かないし、気付けない。
――何がどうあろうと、挑まないという選択肢はない。
この時点で、すでに最初の道を自ら閉ざしているのだと。
第六章7『砂海を目指して』終了。
スバル