第六章5
『それぞれの不安』
出発の朝。八人になった一行の中で、ロズワールが一人ぶんの事情だけを打ち明ける。
🌅 出発の朝
八名の大所帯になった
話し合いやら同行者決めの紛糾やら、残される人員への別れの挨拶やら。
問題は多発したものの、ようよう出発の朝が訪れる。
「そんなわけで、思った以上の大所帯に仕上がっちまったわけだが……」
陣営としては、エミリア陣営とアナスタシア陣営の二つ。
・エミリア陣営 ―― スバル、エミリア、ベアトリス、レム、ラムの五名
・案内役のアナスタシアと、その騎士ユリウス
・魔獣の群れをやり過ごすための、メィリィ
計八名。
単純な作戦行動なら、プリステラ奪還の方が人数は多い。
行軍も、白鯨討伐や怠惰攻略戦のような経験がある。
だが、純粋に遠隔地への移動で主要人物八名というのは、なかなか経験のない大人数だった。
❄️ 守る相手
エミリアに、非戦闘員扱いされる
(・o・)
「何か不安なことでもあるの? スバル」
「目的地のこと考えれば不安は尽きないよ。そういうの抜きにすると……危ないところに大所帯でいくのがおっかない感じ。守る相手、多いと手が回らなくなるし」
「そうかもしれないわね。今回はレムとラムも一緒だし、メィリィとアナスタシアさんに、スバルのことも守らなきゃいけないんだもん」
(゚д゚)
「あれ!? さらっと非戦闘員扱いされてる!?」
(*^ω^*)
「やだ、スバル。冗談に決まってるじゃない。もう、本気にするんだから」
堪え切れずに笑い出すエミリアに、遅れて笑う。
だが事実として、スバルの戦闘力がエミリアに大きく劣るのは本当の話だ。
エミリアから見れば、スバルは守るべき相手。
――無論、そう思わせておくばかりのつもりはないが。
🐴 相性最悪
メィリィとパトラッシュが、睨み合っている
十名近くを運べる大型の客車。
地竜が二頭連結されており、どちらも長距離移動に適した種族だ。
問題はその隣。
身軽な状態で佇む漆黒の地竜と、鼻面を突き合わせて睨み合う小さな影だった。
(-ω-;)
「魔獣使いって大袈裟な二つ名のくせに、地竜と仲良くもできないのか?」
「やだあ、お兄さん。勘違いしないでくれるう? 私が躾けられる動物ちゃんは、みいんな角のある悪い子だけなんだからあ。それ以外の動物ちゃんは、その子たちの臭いがついてる私のこと、好きになんかなってくれないわあ」
「そういうもんなのか……それはそれで難儀じゃね?」
パトラッシュの鼻先を撫でると、気位の高い雌地竜は露骨に手の臭いを嗅いできた。
まるで、目の前の少女の臭いを、スバルの臭いで上書きしようとするように。
「他の子たちは適当に相手できるけど、その地竜はお兄さんに懐きすぎねえ。隙を見せたら私に噛みついてきそうなぐらいだわあ。お兄さん、ちゃあんと躾けておいてくれないと、私がその子の餌にされちゃうから気を付けてねえ」
(゚д゚;)
「そんな怖いこと当たり前みたいに言うなよ……。ほら、パトラッシュどうどう」
🦊 素に戻る
アナスタシアの中身が、一瞬だけ出る
「女の子のご機嫌取りばっかりで、ナツキくんは大変みたいやね」
「……そう思うなら、お前は手間かけさせないでくれると嬉しいんだけどな」
アナスタシア――といっても、その中身は白狐のエキドナだ。
プリステラから屋敷までの道中、二十日余りで差異の大部分が埋まっている。
このまま成り代わられても、そのうちに区別がつかなくなりそうだ。
「そう疑わんといてほしいわ。うちかて本意やないって何度も言うとるやないの。そのために、危うい道先の案内人も買って出てるんやから」
「それも含めて、お前の創造主なら色々画策しかねないってのが俺のスタンスだよ。これも何度も言ってんだ、覚えておいてくれ。別に俺だって、お前が信じたくないわけじゃない。信じられるならその方がずっと気楽だし」
「覚えていない誰かのことで、こうも不利益を被るのは面白くないね。よほど、記憶にいないボクの作り手は君の不興を買ったようだ」
――途中で、口調が変わる。
(・ω・;)
「せやからそないに怒らんといてって。もう、怖いんやから」
睨みつけると、唇を尖らせてアナスタシアに扮し直す。
🎭 呼び出し
ロズワールが、三人を呼ぶ
「スバルくん、君もこっちで一応、話を聞いてもらえるかーぁな?」
屋敷の玄関。
傍らにはエミリアとユリウスの二人がいる。
珍しい組み合わせだ。
「まず、今回の旅路は二ヶ月近い日程が想像される。それだーぁけに道中、不測の事態が起きることが考えられる。問題への対処は都度、エミリア様やアナスタシア様であれば大過ないと思うけーぇど……」
( ̄^ ̄)
「ん、任せて。私もただ、ぼんやり過ごしてたわけじゃないから」
「心強いお言葉です。エミリア様の成長は素直に喜ばしい。……さて、では道中の不安は個々にお任せするとして、重要な注意を一つ。――ラムのことです」
⚜️ 余所の陣営
ユリウスが、同席を辞退しようとする
「その話、私が同席していてよろしいものですか? メイザース卿であれば、アナスタシア様の騎士である私に陣営の内情……一介の使用人とはいえ、そのことを明かすことは得策でないとおわかりのはずですが」
「なにも私も誰彼構わず話を持ち掛けるわけじゃーぁないさ。ユリウス・ユークリウス殿。君の屋敷での振る舞いと、あとはスバルくんあたりの接し方を見ていて、信用の置ける人物だと判断した。それ故の頼み事、そう思ってもらいたい」
(-_-)
「久々に最高に胡散臭いぞ、ロズっち」
(・へ・)
「ごめんなさい、私もちょっとそう思った……」
「まーぁ、説得力がないのは仕方ないかもだけどね。ともあれ、ユリウスくんが余所の陣営の粗探しに腐心する……なんて卑しい性格じゃないと思ったのは事実さ。だから君にも話は聞いてもらいたい。事は命に関わることなのでね」
👹 鬼族
ユリウスは、鬼族は滅んだと聞いていた
「スバルくんやエミリア様は知っての通り、ラムの体質は少しばかり特殊だ。彼女の肉体は、注がれる才能を器が受け切れていない。あるいは才能という炎に見合った燃料を、肉体が用意できていないと言い換えてもいい」
「……知っての通り、ってほど詳しい話を聞いたことはねぇぞ」
「そうだったっけ? なーぁら、彼女が鬼族である話は?」
「それぐらいはまぁ……」
角を生やし、鬼の力を存分に振るうレムに救われた経験は一度や二度ではない。
ラム自身の口から、彼女が角を無くした『ツノナシ』であることも聞いていた。
驚くほどのことではない、とスバルは思っていたのだが。
Σ(゚д゚)
「――鬼族、ですか?」
「ユリウス?」
「鬼族はすでに滅んだものと、そう聞いていましたが」
「十年近く前に最後の集落が焼けて、ラムはその最後の生き残り……おっと、レムのことも考えれば姉妹二人が最後の生き残りになるんだったね」
想像以上に、あの姉妹は稀少な種族だった。
❄️ 他人事ではない
エミリアが、静かに聞いている
「鬼族が滅んだのには、理由はあるの?」
「……ご安心ください、エミリア様。鬼族の滅亡は種族淘汰の必定ですよ。時代の流れに迎合することを良しとせず、古いしきたりにしがみつき続けた結果です。断じて差別や偏見で数を減らされ、滅亡したわけではありません」
(´・ω・`)
「……そう」
エミリアもまた、ハーフエルフとされる稀少な出自の持ち主だ。
二人を残して滅びた鬼族の在り方に、不安と同情を抱くのも無理からぬことだろう。
🩸 角を無くした代償
ラムの体は、今も蝕まれている
「あの二人が鬼族なのは全員が理解したよ。で、それでどうなる?」
「肉体的な活動の止まっているレムはさておき、ラムの肉体は先ほど話した通りの欠陥がある。そーぉれは鬼族にとって重要な、角という器官を無くしたことが原因だ。本来、角が補うはずの肉体を動かす莫大なマナ――それを用意できないことで、体は常に苦痛と倦怠に蝕まれている」
Σ(゚д゚)
「そんなことになってるの……!?」
「エミリア様が驚かれるのも無理はありません。あの子は気丈が過ぎる。一度だってそのことで、表情を曇らせたことはなかったでしょーぉから」
ラムに角がないことは知っていた。
角を無くす前の地力が図抜けていたことも、レムの言葉から断片的に。
だが、能力の低下以外にペナルティがあり、それが今も彼女を蝕み続けていることまでは思い至らなかった。
⚜️ 即座に看破
ユリウスは、そこまでで察した
「――なるほど。メイザース卿のお考えはわかりました」
今の流れは、単にラムの体質を確認しただけの話だ。
それだけで何がわかったのか。
「鬼族の種族的な特徴は、莫大なマナを操る力と強靭な肉体の戦闘力です。その双方を支える骨子が、他種族には存在しない角。――その角が役割を果たせず苦しんでいるのであれば、何かが『角』の代わりを果たさなくてはならない」
「君の名前を覚えていなかったことが悔やまれるほど、なるほど、聡明だ。これだけでそこまで看破されると、気持ちのいいぐらいだーぁよ」
(・∀・)
「そっか、そういうことなんだ……」
置いてけぼりで困惑しているのはスバルだけだ。
事が魔力関連になると、門外漢は理解に遅れるばかりである。
(-ω-;)
「勝手にそっちだけでわかった感じになるなよ。つまり、どういうことだ?」
「簡単な話だよ。ラム嬢の肉体は、角があったときと同等のマナを外部から摂取することを求めている。角がなくなってそれができないのであれば、その外部から与える手段を誰かに求める必要がある。……それを、私たちに願い出るのですね」
💡 一年越し
スバルの、長い勘違いが解ける
「普段は夜、こっそりと私が補給を担当してるんだーぁけどね」
Σ(゚д゚)
「……あ!?」
思考の歯車が噛み合った。
毎晩、ロズワールの下へいそいそと足を運ぶラムの姿。
正直、あれは主人とメイドとのいかがわしい関係だと、生々しさに目を背けていたのだが。
「何か思いついたのかな、スバルくん?」
(・∀・;)
「い、いや、大したことじゃない。どぞ、先に進めてください」
一年越しの勘違いと発覚しても、わざわざ訂正するほどのことではない。
そもそもロズワールの一族は、何代も重ねて魔女エキドナとの再会を果たそうとしていた連中だ。
ラムに浮気していたわけではないとわかって、かえって執着心への納得がいったぐらいである。
🌸 蕾たち
ユリウスは、引き受けられない
「ですが、メイザース卿。その申し出ですが、引き受けるには私では実力不足かと思われます」
「謙遜、あるいは違う陣営の相手に肩入れはしない……といった理由ではないようだーぁね。ラムへのマナの提供は、火・水・風・地の四種類の属性が必要になる。それだけにむしろ、エミリア様より君の方が適任だと思ったんだが」
「メイザース卿のご期待は、おそらく私の周囲にいる彼女たちのことでしょう」
周囲を淡い光が飛び回るのが可視化され、六種類の輝きがゆらゆらと揺らめく。
見知ったそれは、ユリウスと契約する六体の準精霊。
――ただし今は。
「私の蕾たちですが……今、彼女たちと私との間にあった繋がりは消えています。元の肩書きが今も名乗れていれば、申し出を受けることに何の躊躇いもありませんが」
「名を奪われたことで、精霊との契約も断たれた……か。そのわりに、精霊たちは君の周りから離れようとしないようだーぁけど?」
「消え失せた繋がりの残滓が彼女らの中に残っているのか、あるいは漂白されて見えなくなっただけで契約自体は残されているのか……いずれにせよ、未熟なこの身が見放されずにいるのは蕾たちの慈愛に救われているだけに過ぎません。この身に残されたものは少なく、微力ではお力になれるものかどうか」
「――今はただ、一介の騎士として尽くすだけの身です。申し訳ありません」
❄️ 私に任せて
エミリアが、引き受ける
( ̄^ ̄)
「大丈夫。ユリウスができないなら、それは私に任せて」
ずいっと前に出ると、自分の周囲に微精霊を浮かび上がらせる。
「ユリウスの連れてる準精霊の子たちとは少し違うけど、微精霊の子たちとだったら私も力を借りれるもの。私だけの魔法じゃ火の属性が強すぎるけど、微精霊の力を借りれば他の属性の魔力も使えるわ。それでどう?」
「無論、彼だけでなくエミリア様にもお願いする気ではいましたので、エミリア様がやる気になってくださっているなら問題はありませんよ。たーぁだ、おそらく最初の内は非常に魔力の安定に苦労するかと思われます。その補助のために、ベアトリスの力をお借りください」
(・o・)
「ベア子の?」
「魔力理論と運用に関して、ベアトリスはとーぉても優秀だよ。今は繋がる相手がスバルくんだから宝の持ち腐れ感がすごいけど、少ない魔力を上手く運用して色々とこなしているだろう? その知識、エミリア様にも貸してもらいたいわーぁけ」
( ̄д ̄)
「少ない魔力とか言うなよ。でも、そうか」
🟣 一回は断られる
なぜ
ベアトリスに直接言わないのか
「いや待て、それならなんでベア子に直接じゃなくて俺に話すんだよ。そりゃ俺も話は聞いておきたいけど、ベア子に話すのが筋だろ」
(´・ω・`)
「だって、ベアトリスに話したら無意味に一回は断られるに決まっているからねーぇ。君の思ってる以上に、ベアトリスは私に辛辣なんだよ。君からももう少し私に対する風当たりが優しくなるよう、言っておいてくれないものかーぁな」
( ̄ー ̄)
「あ、それは無理だ。俺、どっちかっていうとどころか完全にベア子サイドだし」
やらかしたことがやらかしたことだ。
一年やそこらで埋まる溝でもない。
ちょっと流れが違えば殺されていたかもしれない相手と、そうそう簡単に打ち解けられるほど世の中優しくない。
(・∀・)
「そう考えると、殺された相手やらぼこぼこにされた相手やらと行動できる俺って、ひょっとして大物なんじゃないか……?」
「あ、スバル、今、調子に乗ってるときの顔してる」
(゚д゚)
「そんな顔してるときあるの、俺!?」
🎭 初めてのこと
ラムが自分から離れると言ったのは、初めてだ
「よろしく頼むよ、スバルくん」
(・_・?)
「なんだ、やけに殊勝じゃんか。そんな風に言うなんて珍しい」
「殊勝にもなるとも。――ラムが私の傍を離れようと言い出すのは、初めてだしね」
それだけは茶化す雰囲気なく、真剣な声だった。
視線を外し、青い空を見上げる。
「私にも当人にも、記憶のないはずの双子の妹だ。だけど、やーぁっぱり当事者は感じ入るものがあるんだろうね。ああして、私の意見に感情的に逆らうラムを見るのは肝が冷えるよ。――だから、君たちにお願いしたい」
「……ああ、覚えておくよ」
何もかも、大事なたった一つ以外の全ては二の次であると言い切る男。
そうまで自分に尽くすラムには、思うところがあるらしい。
それが変化であるというのなら、それは決して悪い変化ではないと思う。
理解のできない怪物を味方に抱え込むよりも。
その感情を持て余して思い悩む人間であってくれた方が、ずっとマシだ。
🚪 四人のメイド
レムは、車イスで出てくる
屋敷の扉が開かれて、向こう側から現れるのは四名の少女だ。
いずれも肩書きはロズワール邸のメイドであり、揃った姿はなかなか壮観である。
もっとも、その内の一人は眠りの中にある。
瓜二つのもう一人は、旅支度を整えた姿だ。
「旦那様、二人の準備が整いましてございますわ」
「ご苦労様。――ラム、道中気を付けて」
「ロズワール様、わがままを聞き届けていただいてありがとうございます。そのお心に見合った成果、必ずお持ち帰りします」
「期待しているよ。とはいえ、無茶はしないよーぉうに。それから、エミリア様とスバルくんの二人に無茶もさせないように。それも君の役割だーぁからね」
「重々、承知いたしました」
どの口が、と突っ込みを入れたくなるが、それはラムの視線に黙らされた。
🛞 一点もの
車イスは、スバルが作らせた
レムは外出着に着替えさせられ、今はペトラの押す車イスに乗せられている。
スバルが元の世界の記憶を頼りに再現したものだ。
車イスの雛形は、こちらの世界にも存在した。
だが、方向転換の邪魔にならない前輪や、足場、シートの改造など手が凝らされている。
もちろんシートベルトと、頭部を守るクッションも実装済みだ。
ロズワールに無茶を言い、給金を注ぎ込んで作らせた一点ものである。
「遠出になるとメンテナンスに不安があるけど……」
「スバル様が小器用でいらっしゃるのと、素材が素材ですから二ヶ月であれば使用には耐え得るものと考えますわ。もちろん、無茶はされませんよう」
(´・ω・`)
「気を付けてくださいね、スバル……様」
受け取ってレムの後ろへ回ると、背負って進むより格段に楽だ。
舗装された道が前提であるので、砂漠や草原、砂利では効果を発揮しないが。
🏠 留守を頼む
屋敷は、二人に任せる
「OK、うまくやれそうだ。ペトラとフレデリカも、十分気を付けてな」
「旦那様のお世話はお任せください」
「オットーさんとガーフィールさんの面倒も、だよね」
旅の行程が二ヶ月ともなると。
プリステラにいるオットーたちも、療養が終わって屋敷へ戻ってくるはずだ。
🌸 譲って当然
ラムが、車イスを引き受ける
「それじゃ、名残惜しいけど出発するとすっか」
(¬_¬)
「どうしてバルスに指図されなくちゃいけないの。調子に乗るんじゃないわ」
「指図とかそんなじゃないけど、じゃあ、お前が仕切る?」
「ラムがそこまで図々しい性格に見えるの? 淑やかさと気遣いが肝要なメイドであるラムに、そんな真似はさせないでほしいところね」
(-_-;)
「なんなの、お前。文句言いたいだけの年頃なの?」
「別にそういうわけじゃないわ。ただ」
言葉を切り、意味ありげにスバルの手元を見る。
その手元は今、レムの車イスを押しているところだ。
「代わってほしいならそう言えよ……」
「ラムが同行する意味と目的を考えれば、そこは譲って当然のところでしょう。……言葉にされずに察したところは、少しだけ見直してもいいわ」
眠ったまま座る妹を労わるように、ゆっくりと車イスは竜車に向かって前進していく。
🤲 両手が埋まる
空いた手を、二人が取る
その背を見送りながら、空いた手を理由もなく開閉する。
と、その手がそっと横から伸びてきた小さな掌に握られた。
「ベア子か」
「情けない顔してなくても、あの娘を想う気持ちで姉に負けてるわけじゃないから心配いらないのよ。スバルはスバルで、やってやれることをやればいいかしら」
「そういうわけでも……いや、そういうことなのか?」
頬に触れて、引っ張ったり抓ったりしてみる。
と、今度はそうしていた手が別の白い手に奪われた。
(*^ω^*)
「はいはい、そんなことする手は私が取っちゃう」
(*ノωノ)
「おっふ、エミリアたん……」
( ̄ー ̄)
「あの娘が起きたら、両手が埋まりやすいスバルがどうするか見物なのよ」
「あ、それ私も気になるかも」
⚜️ 追い打ち
四面楚歌のまま、出発する
エミリアとベアトリスに挟まれ、困ったような顔で二人を見る。
しかし、戻ってくるのはじと目と楽しげな視線の二つだけだ。
おまけに背後からはペトラの視線が突き刺さる。
竜車の前で振り返るラムの、冷たい軽蔑の眼差しまで投げかけられる。
まさかの四面楚歌。
(#゚Д゚)
「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ。さあ、どうぞ!」
( ̄ー ̄)
「そうかい? それなら一つだけ。――麗しい女性たちに囲まれて、実に男冥利に尽きる状況だとも。君の両手がその花々の全てを満足させられるかどうか、私には非常に疑問に思えてならないけどね」
(ノ゚Д゚)ノ
「なにこれ、俺が責められる流れなの!? 俺、なんか悪いことした!?」
残念ながら、フォローする内政官も筆頭武官もこの場にはいない。
来たる二ヶ月の旅路で、スバルは孤軍奮闘するしかないのだ。
両手から伝わる温もりへの信頼と親愛。
それに勝るとも劣らない不安が、胸に込み上げてくる。
そんな、出発の朝であった。
第六章5『それぞれの不安』終了。
フレデリカ
ペトラ