リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第七章11

『血命の儀』

話を聞いてもらうために、通らなければならない儀式がある。それは、命を賭けた証明だった。

🩸 儀式の名

儀式の中身を、誰も説明してくれない

スバル

(・_・)

「――『血命の儀』ってのは、なんなんだ?」

アベル

「誇りや約定の価値を高く見積もるシュドラクの民にとって、決して無視できぬ習わしの一つだ」

アベル

「森の外の陣地で捕虜になったと話していたな。待遇は?」

スバル

「……肩と背中の傷がその功績だよ。あとは、雑用もさせられた」

アベル

「雑用ということは、陣の中も見たな。おおよその配置は? ない頭を絞り尽くして、記憶からそれを引っ張り出せ」

スバル「いくつかの天幕と、陣内の人数くらいなら……おい、何の話なんだよ」

答えは返らない。

それより早く、複数の足音が近付いてきたからだ。

👭 姉と妹

ミゼルダには、よく似た妹がいる

ミゼルダ

「ウタカタから聞いタ。お前たちが『血命の儀』を受けると言ったト」

自分の足にしがみつく少女――ウタカタウタカタの頭に手を置いている。

ミゼルダ

「いったい、どこで『血命の儀』のことを知っタ? それは我々、シュドラクの間にだけ伝わっている儀式のはずダ」

アベル

「笑わせるな、シュドラクの若き長よ。人間が二人いれば秘密は漏れる」

ミゼルダ

「……なるほどナ。どうやら、『血命の儀』を受ける資格はあるようダ」

タリッタ

(╬゚д゚)

「姉上! 本気なのですカ? こんな男たちの話を真に受けテ……」

ミゼルダ

「真に受けたわけじゃないサ、タリッタ。ただ、打ち捨てるには惜しいと思っただけダ」

髪を青く染めた女性。

目力の強い顔立ちは、確かによく似ていた。

🎓 通過儀礼

対等に、話を聞いてもらうために

ミゼルダ

「それは我らシュドラクに古くから伝わル、一族へと己を認めさせるための儀式ダ。成人の儀と言ってもいイ」

スバル

(・_・)

「ああ、そういうやつか。けど、俺たちは別に……」

アベル

「戯けたことで時間を無為にするな。重要なのは、儀式の本質だ」

成人の儀の本質は、その集団において一人前であると認めさせること。

スバル「シュドラクの人たちに、対等に話を聞いてもらうための通過儀礼……」

アベル

「そういうことだ」

タリッタ

「姉上、だったラ、エルギーナがよいのでハ?」

ミゼルダ

「『血命の儀』ハ、それが行われるときに最も大きな困難が選ばれル」

ミゼルダ「――エルギーナ」

その名を聞いたウタカタウタカタが肩を跳ねさせ、女性たちが緊張に包まれた。

🌙 深い森を歩く

🟨骨付き肉を持った、優しい人

目隠しも拘束もされず、シュドラクの民に囲まれて集落の外を歩く。

暗闇の中を手探りで進むようなもので、何度も足下を危うくした。

🟨 髪を黄色く染めた女性

(´ー`)

「大丈夫ヨ~。私、力持ちだから全然平気だもノ~」

喋り方も顔立ちも柔らかい、ふくよかな体型の女性。

引き締まった女性が多いシュドラクでは珍しく、とても親しみやすい。

🟨 髪を黄色く染めた女性

「ケガの調子は平気なノ~? 手当て、私がしたノ~」

ただ、片手にずっと骨付き肉を携帯しているのが気になる。

🟨 髪を黄色く染めた女性

「あはハ、それはそうなノ~。それにお腹いっぱいだと死ぬときも苦しむノ~」

優しげな風貌でも、彼女はシュドラクだった。

🏃 逃げないのか

逃げようとは思わないのか、と問われる

アベル

「時に、だ。貴様は今のうちに逃げ出そうとは思わないのか?」

スバル

(¬_¬)

「そういう、妙な誘惑かけるのやめてくれねぇか。考えなくはないけど、やらねぇよ」

アベル

「ほう、何故だ?」

森の闇は深く、数メートル先も見通せない。

陣地の方角も距離も曖昧だ。

その上、周囲のシュドラクは全員、両手が故障した自分よりずっと上手。

何より――

スバル「俺が逃げたら、あんたはいったいどうなるんだよ」

アベル

「――。なるほどな。つまり、貴様はそういう輩か。唾棄すべき、くだらぬ英雄願望」

スバル

(╬゚Д゚)

「あんだと?」

問い質すより早く、先頭を行くミゼルダミゼルダの足が止まった。

🕳️ 押されて

押されて、急斜面の底へ

ミゼルダ

「ここダ」

スバル

(・_・)

「ここって、何にも見えねぇんだが……」

ミゼルダ

「ゆけばわかル」

背中を押され、一歩、二歩と踏み出したところで足が空を切る。

急斜面を滑り落ち、どうにか底で息をついた。

投げ込まれたのは、取り上げられていた装備。

鞭も、背中に刺さっていたナイフも、巡り巡ってこの場に戻っている。

ウタカタ

(≧▽≦)

「ウーたちが見てル! 頑張レ!」

🟨 髪を黄色く染めた女性

「それジャ、頑張ってほしいノ~っ」

のんびりとした声で、のほほんと微笑みながら、大岩で斜面の入口を塞ぐ。

信じ難い怪力。あの強固な即席の檻を誰が作ったのか、これでわかった。

💍 黒い宝石

黒い宝石の指輪を、放り投げられる

アベル

「マシな方の指に嵌めておけ! 時間がないぞ」

放り投げられたのは、黒い宝石の嵌め込まれた指輪。

高級感と共に、奇妙な威圧感がある。

アベル

「魔を封じた指輪だ。使う前に口付けしておけ。限度はあるが、火を吐き出す」

スバル

( ゚д゚ )

「は? 魔? 口付け? いったい何を……」

アベル

「――くるぞ」

暗闇からぬっと姿を見せたのは、ぬらぬらと濡れた光沢の緑の鱗。

この密林で、すでに二度も遭遇した大蛇の魔獣。

スバル「まさか、エルギーナ……?」

ミゼルダ

「さあ、戦うがいイ、戦士の証を立てヨ! シュドラクの、狩りの眼が見届けル!」

🌡️ 熱を、見ている

熱を、見ている

大口が閉じ、大気が噛み殺される。

爆風に押されて地面を転がる。

アベル

「何度も言わせるな、愚か者が。息を潜めろ」

マントの中に包み込まれる。――『姿隠し』。

アベル

「息を殺していれば、とっさに奴もこちらを見つけられぬ」

だが、違和感を覚えた。

蛇には、暗闇でも獲物の位置を把握するための熱感知器官がある。

――ピット器官。

獲物の温度を探知する、暗闇の中の暗殺者。

スバル「――ゴーア」

噴煙を突き破って襲いかかった大蛇の鼻面で、炎が炸裂した。

⚔️ 通らない刃

鱗を、貫けない

好機を逃さず、アベルアベルが斬りかかる。

最も貫通力のある刺突が喉元へ迫り、鋭い刃が鱗を深々と抉る――かに思われた。

アベル

(×Д×)

「く……っ!」

先端を浅く突き刺したところで、それ以上の侵入を阻まれる。

渾身の一撃だった。

それが、通らなかった。

スバル

(>﹏<)

「ゴーア! ゴーア! 重ねてゴーアぁ!!」

闇雲に連射しても、魔獣は長い舌で焦げた頬を舐めるだけ。

戦い始めてから三十秒。それだけで、勝算がないのがわかった。

🏹 頭上から

全員が、弓をつがえていた

スバル

(;゚Д゚)

「おい、ミゼルダさん! こいつは――」

きついと訴えようとして、息を呑む。

頭上のシュドラクの民が全員、弓をつがえてこちらへ狙いを付けていた。

ミゼルダミゼルダも、タリッタタリッタも、あの黄色い髪の穏やかな女性も、ウタカタウタカタさえも。

誰一人例外なく、冷たく睨みつけている。

アベル

「一度始めた儀式だ。『血命の儀』に逃げ道はない」

――彼女たちは笑い合った相手と、一秒後には殺し合いができる。

ウタカタウタカタを見れば、それが幼い頃から染みついた死生観なのだとわかった。

その是非を問うことに、ここでは何の意味もない。

🎯 勝利条件

角を折れば、魔獣は服従する

アベル

「胴体の鱗は抜けん。心の臓を貫くのが無理なら、目や口から脳を狙うか?」

スバル

「たぶん、それも難しい。なら、俺たちの狙う勝利条件は、もうちょぴっと上だ」

スバル「角を折れば、魔獣は折られた相手に服従する。――そこしかない」

アベル

「策は」

スバル

( •̀_•́ )

「俺が囮、攻撃役は怪しい覆面男」

アベル

「怪しい? ここにいるのは高貴な覆面男だけだな」

戦士の証なんて、似合わないし欲しいとも思わない。

だが――

スバル「それがなくちゃお前のところにいけないなら、俺はそれを手に入れる」

🔥 谷を焼く

鞭を枝に絡ませ、体ごと跳ね上がる

左手から投じられたのは、鞭の先端。

右でも左でも扱えるよう、師匠に技を仕込まれていた。

狙ったのは鱗ではなく、その頭上に生い茂る太い枝。

鞭を絡ませ、体が勢いよく跳ね上がる。

タリッタ

「――っ、姉上! あの男ガ、逃げル!!」

ミゼルダ「逃げるんじゃなイ、戦う気ダ!!」

空を旋回しながら、右手の指輪で崖の縁に狙いを付ける。

スバル

(>﹏<)

「ごおおぉぉぉぉ――!!」

溢れ出す炎が蔦や枝に燃え移り、凄まじい業火となって谷間を焼く。

ミゼルダ

(・∀・)

「いいゾ、いいゾ、面白いゾ!」

谷が炎に包まれれば、熱感知は死ぬ。

アベル

「大方、熱を見るといった手法か。――それも、もはや通用せぬ」

『姿隠し』のマントが、飛びかかる姿を見失わせた。

🖤 とっさの手

振り向かせるために、禁じ手を使う

崖から飛び降りた剣が、白い角へと銀閃を奔らせる。

――だが決着の寸前、大蛇が頭部をひねって剣撃をずらした。

角の半ばで止まり、薙ぎ払われる尾がアベルアベルを捉える。

アベル

(×Д×)

「かふっ……く、ぬかった……ッ」

立てない。『姿隠し』にくるまる余裕もない。大口が開かれる。

スバル「俺は、『死に戻り』して――」

世界から色が抜け落ち、音が消え、空気の流れさえ感じなくなる。

静止した世界へ溢れ出る、黒い影。

🖤 影

「――愛してる」

スバル

「……ああ、耳にタコだよ」

心の臓を握られ、全身が指先からすり潰されるような激痛。

スバル

「俺を、見ろぉ――っ!!」

膨れ上がる瘴気を感じ取った大蛇が、頭上の元気で臭い方へ振り向く。

――その頭部へ届かせるには、振り向いてもらわなければならなかった。

💥 柄頭へ

魔石ごとの、一発

鞭を手放し、体が放物線を描いて飛ぶ。

上顎に足をかけ、無様につんのめるように前へ。

眼前には、半ばまで刃を埋めた白い角と、その刀剣の柄頭。

スバル

(>﹏<)

「あ、あああぁぁぁぁ――っ!!」

体を回転させ、渾身の右拳を叩き込む。

ただの拳撃で、この太い角が断ち切れるとは思わない。

だが、それはただの拳撃ではない。――魔力のこもった、魔石ごとの一発だ。

宝珠が割れ、赤い光が漏れる。

刹那、光は膨れ上がり、爆裂を起こして全ての視界と音が消し飛んだ。

🗣️ 望みを語れ

遠のく意識で、望みを口にする

仰向けの体が痙攣し、口の端から黄色い胃液がこぼれる。

すぐ真横に頭を落とした大蛇の震動を、瀕死の意識は気付けない。

アベル

( •̀_•́ )

「――ナツキ・スバル! 立て! 今すぐ、立て!」

アベル

「立って、言うべきことがあろう! 女を、レムという女をどうする!」

アベル

「貴様の口から語れ! 貴様の望みを、俺の口が語ることはできん!」

ミゼルダ

「――あア、シュドラクの族長、ミゼルダが見届けタ! 戦士ヨ、我が同胞ヨ! 何を望ム!」

アベル

「その閉じた瞼の裏に、己が欲するものを描け。――怠惰な豚に、くれてやる餌などないのだ!」

銀髪の少女が見える。

クリーム色の髪をした幼い少女、桃色の髪の少女。

灰色髪の青年や金髪の少年、他にもたくさんの、人の顔が見えて。

――青い髪の少女が、その人たちの中にいるのが嬉しくて。

スバル

(´;ω;`)

「れむ、を……」

アベル

「なんだ!!」

スバル「た、すけて……」

アベル

「聞いたか、シュドラクの民よ。これが新たな同胞の願いだ」

ミゼルダ

「皆まで言うナ。――我らには誇りモ、勇気もあル」

ゆっくり、ゆっくりと意識が遠ざかっていく。

アベル「――貴様は己の務めを果たした。女は任せるがいい」

第七章11『血命の儀』終了。